人が何を聞きたいかなどどうでもいい。人に好かれるかどうかなどどうでもいい。全世界に頭がおかしいと思われてもどうでもいい。誰の心を打ち砕こうとどうでもいい。問題なのは真実だ。
サラ・グラン 高山祥子訳 『探偵は壊れた街で』創元推理文庫 p.103
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人が何を聞きたいかなどどうでもいい。人に好かれるかどうかなどどうでもいい。全世界に頭がおかしいと思われてもどうでもいい。誰の心を打ち砕こうとどうでもいい。問題なのは真実だ。
サラ・グラン 高山祥子訳 『探偵は壊れた街で』創元推理文庫 p.103

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自分が書きたいことを書く、それがすべてです。何年も先まで、あるいは何時間か先までも、それが価値を持つかは誰にもわかりません。それなのに、銀のお鍋を手に持ったどこかの校長先生のため、あるいは物差しを隠し持ったどこかの教授先生のために、あなたのヴィジョンを髪の毛一本分でも、ほんの少しの色味でも変更してしまうとしたら、それは見下げ果てた裏切り行為というものです。財産や純血を失うことは人的災害の中でも最大級のものと言われてきましたが、ご自分のヴィジョンを変更することに比べたら、ごく些細なことにすぎません。
ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』p.183-184 平凡社ライブラリー 片山亜紀訳
歴史に残る
歴史手帳に載ってる歴代総理大臣とか 日本の政治機構のその他歴代○○、 将軍とか執権とか執事とか老中とかのリスト そういうのをぼけーっと見ていて。
うちんとこの父なんかは こういう歴代○○に名前が乗るような人間になれと 子供に願ってる節がある。
かーっ権威主義! 封建的! 儒教的倫理観!! ふざけんなって話ですよ。 そんな歴史に名前が残るようになってなにがよいものか。 延々と毀誉褒貶を繰り返すだけですよ。
そんな「でっかい志」なんかよりも いま、ここで、僕が手に持っている小さな手帳に、 何百年前の人間が どんな名前で、 どんなことをして、 どんなことを考えていたのか、 どんなふうに生きていたのか、 何百年後の僕に伝わってる。 この手帳に書いてある。
伝えようとした人がいる。 伝えてきた人がいる。 こうして伝わってる。 それってすごい。
歴史とは、過去についての書かれた記録であって 書こうとした人が 残そうとした人が それを今までずっとキープしてきた人がいて はじめて成り立つ。
だからね、別に歴史に偉大な名を残そうとは思わない。 いらんそんなん。 それよりも 長い長い時間の中で伝わっていく、 誰かが伝えたいと思った何かを支えていたい。
その方が 「歴史に残らない影の世界の戦い!」 「彼らの活躍はしかし、歴史書には記されていない……」 みたいでかっこいい。
「がんばる」しか選択肢がない人 - orangestarの雑記
うわああああうわああああうわああああ(SAN値の減少)
たんぶらさんや
たんぶらさんや、「今はちょっとつらいので見たくない」とか「Not for me」というだけの反応に、作者への罵倒やそれが好きな人への攻撃のニュアンスを混ぜるのやめてもらえんかのう。(リコメンドを消去するときの)

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ろくでもない話
気分が落ち込みはじめると、ろくなことがない。 自分の行ったすべてを後悔する。 昨日書いたツイート、先日友人と会ったときの会話、あれも、これも、 あんなに愚かしいことはしなければよかった。 あんなに馬鹿々々しいことは言わなければよかった。 あんなに浅はかな考えを表明しなければよかった。 細かいことでむかっ腹をたてる。 腹が立つと言葉遣いまで父そっくりになる自分に嫌悪を抱く。 自分の一挙一動が嫌いになる。嫌悪感しか抱かなくなる。 もう布団をかぶって誰とも何ともかかずらわずに息だけしていたい。 なにもしたくない。 自分の行動のなにもかもがいやだからだ。 自分がすることがどれだけいやでも、自分が人とかかわってお金を稼がなければならない。 何もしなくても、時間は流れていくし、時計は針を進めるし、太陽は沈んでいって明日になる。 そして真っ暗になった自分の部屋で今日何もしなかったことに絶望するのだ。
MSWordをプロセス型アウトライナーとして使う
Photo by mariannehope
■
先日ご紹介したとおり、 @takwordpiece さんがアウトライナーについての本を出版されました。 『アウトライン・プロセッシング入門(Tak.)』
この本の最後のほうに、「アウトライナーフリーク的Word論」という文章があります。
もとのブログ記事はこちらです(書かれている主旨は著書とほぼ同じです)。
▼アウトライナーとしてのWord
また、本の巻末の「自由なアウトラインプロセッシングのためのアウトライナー一覧」にはこうあります。
Microsoft Wordのアウトライン機能は、見出しと連携するため、本編では「プロセス型」ではなく「プロダクト型」として分類しました。しかしWord は非常に細かくカスタマイズが可能なので、特性を理解して使えばプロセス型的な使い方をすることもできます。
じゃあ、どうすればMicrosoft(MS) Wordをプロセス型アウトライナーとして使えるのか?というのはTak.さんの本には書かれていませんん。
「入門」書にしては複雑すぎるカスタマイズが必要で、そこまで書いてしまうと初心者が混乱すると判断されたのでしょう。
(たしかにMSWordはデフォルトではがちがちの「プロダクト型」です。)
ですから、「MSWordアウトライナーフリーク」として私がその方法を紹介させていただきます。なお、ショートカットはWindows版のものです。
■ MSWordにおけるアウトライン機能の基本
MSWord には本格的なアウトライン機能とアウトライン表示(Ctrl+Alt+O)が備わっています。
・アウトライン機能:基本構造は9階層(レベル1-9)+本文 ・アウトライン表示 (Ctrl+ Alt+O):デフォルトは1ペイン表示 ・見出しマップ(Alt+v+D):これで 2ペイン表示になる
日常使う「印刷レイアウト(Ctrl+Alt+N)」はアウトライン構造に「スタイル(いわゆる書式設定)」があてがわれたものです。
→このスタイルのデフォルトがいけない。
■ MSWordのテンプレートにみられる「プロダクト型思想」
MSWord標準テンプレートの最初のほうにでてくる「レポートデザイン(空白)」を用いた文書では各レベルはこのように表示されます。
レベルに自動的に段落番号が振られ、階層が下がるほどフォントサイズが小さくなったり、太字や斜体などが乱用されています。
ちなみに印刷する場合はこんな表示です。(基本的にアウトラインのインデントがとれたもの)
このスタイルでは「プロダクト型アウトライナー」と呼ばざるを得ません。 レベルの役割が既に固定され、上から章、節、とみなす形にしてあるからです。 (もちろん、書式がきまりきったレポートなどのプロダクトには向いています。)
コレでは自由な階層の組み替えはとても期待できません。 こんながちがちのプロダクト型アウトライナーではWork Flowyのようには使えない・・・。
と思い込んでいませんか?
大丈夫です!ちゃんとMSWordでも「プロセス型アウトライナー」として使える方法があるんです!
■ MSWordを「プロセス型アウトライナー」として使う為のカスタマイズ
プロセス型とプロダクト型の最も大きな違いは、「レベル間の書式の変化があるかないか」です。
書式が固定されたり、勝手に段落番号が振られることで、レベル間を越えた文章の移動ができなくなってしまいます。
ですから、Work Flowyのような「レベル間に書式の変化」がないものにすればいい。
そんなことができるのか? できます!(さすがMicrosoft)
最初の方で「アウトライン構造にスタイルがあてがわれたもの」という標記をしました。
MSWordでは、ユーザーがレベル毎にスタイルを自由に設定することができます。 ですから「レベル間に書式の変化がない」ようにスタイルを指定すればいいのです。
やることは、次の2つです。 ・レベルごとのフォントサイズを統一する。(段落番号は削除。) ・レベルが増える毎にインデントが一定間隔で増えるようにする。
この設定で作った文章はこうなります。(フォントはメイリオ10.5、インデントは1.5字に指定してあります)
そうです、各レベルを文章のフラグメント要素として扱うことで、文章の構造を自由に組み替える仕組みとして機能させるのです。
そうすれば、このように、印刷モードにしても表示がアウトライン表示とほぼ一致します(用紙サイズを除けば。)
(私はこの書式では本文は使わないので、本文には特にインデントを入れず浮いた表示になっています。)
このテンプレートを使ってこの記事の冒頭の部分をMSWordのアウトライン表示と印刷モードで表示させたものをそれぞれ載せておきます。
本来 ”本文”に書くはずであろう内容が ”レベル” 内に標記されていきますが、ワードプロセッサーの機能上、殆ど問題になることはありません。
Work Flowyではできない、「トピック内の改行」もshift+enterで可能です。
* ただし本文で可能な「1行目のみを表示」はできません。「見出しマップ」では自動的に1行目のみを表示しますので、そちらを代替されるといいと思います。
* もともとレベルを完全に「見出し」としてしか扱わないつもりの設定であれば、おそらく昔のエクセルのセルの様に字数制限があったり、フォントが決められていたのではないかと思います。そこの汎用性がめちゃくちゃ広いくせに使えることをひた隠しにするMSらしいツンデレ仕様である。
このように書式設定したMSWordテンプレートを以下に公開しましたのでよろしければ御自由にお使いください。
MSWordをプロセス型アウトライナーとして使うためのテンプレート
■ MSWordで楽しいアウトライナー生活を!
MSWordのアウトライン機能は大変優れていて、9階層に限定される点、Zoom機能がない点を除けば、折りたたみ、移動などほぼすべてのアウトライン機能が操作可能です。
それ以上に、1ペイン表示と2ペインと自由に選べることや、レベルを越えたトピックの作成、印刷モードとの連携など、MSWordのアウトライン独特のすばらしさがあって、そこは声を大にして語りたいのですが、そればまた別の機会に。
そしてMSOfficeはなんといっても、私達の日々の生活につよくつよく密着したソフトウェアです。
MSWordを単なるワープロとしてではなく、「プロセス型アウトライン・プロセッサ-」として使うことができたら、毎日の物書き作業が本当に楽しくなりますよ。
では、Happy Outlining with Microsoft Word!
■
これは便利。保存。
不注意だったきみが悪なのではない。責任を負えないことにまで責任を感じてしまうこと、いつも正義の側に身を置いていたいと自堕落に願ってしまう精神的な弱さこそが悪なんだ。
笠井潔『オイディプス症候群』カッパノベルズ版p.720
興味深い
One Pan Roasted Lemon Pepper Salmon and Garlic Parmesan Asparagus
“This is a one pan dish that has the perfect combination of flavors! Lemon and parmesan were just made to go together, so I decided to go with a lemon pepper salmon and garlic parmesan asparagus – and indeed it made the perfect one pan dish.“

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つらいつらい
この、動けなさ。 満たされない、のではなく、自分の器が極度に狭く小さくなっていて、そこに何かを入れようとしても入らないし、何かを汲み出すこともできない。 目下の状況がつまらなくて、だるくて、つらいんだけど、打破する元気が沸いてこない。 本は活字が頭に入らないし、マンガは話の流れが追えない。 薬を飲まないと眠くならないし、横になっているだけでは時間が過ぎていくだけなんだけど安心感がない。 こういうタイミングでやりたいことリストを作っておくといいらしいんだけど、考えるほど頭が動かない。 何かしたいのに、実際は何もできない焦りと苛立ちと諦めがべたりと貼り付いている。 なかなか取れない。このままだらだらだらだらと動けない、何もできない先を考えると恐ろしすぎる。 何もできずにだらだらだらだらだらだら生きて、だらだらだらだらだらだらしていると罵られる。 つらいのに罵られる。動いてないことは事実。休んでばかりなのも事実。 動けない。 つらい。
古い大都市は、犯罪や悪徳の伝統を詩にまで高める機能を持っているらしい。
澁澤龍彦「仮面について-現代ミステリー映画論-」『神聖受胎』
魔導書大戦RPGマギカロギアノベル「愛しのクラリモンド・クラクフレーン嬢」
「文通をしたことはある?」 書庫作業中にメルロが唐突に切り出した。 「この仕事ですから、幾度かは。古参の先生で、本人の手書き文字しか信用しないという方はまだまだいらっしゃいますしね」 メルロが発する問いかけは常に必要最低限の言葉から成る。こちらから話を膨らませるような受け答えをしなければ、最終的に彼女が求める話に到達することができない。 読は過去に経験したエピソードを選んで答え、メルロの返答を待った。その間にも黙々と古書を棚から抜き出しては台車に乗せていく。 「手紙は怖いよ、特に手書きはね。差出人も受取人も情念を込めるから。恋文だとか、最たるものだね」 「恐ろしいですか」 「望月くん、君は今更、書物だけが禁書だとは思っていないよね」 メルロはちらりと流し目をくれて、同時に本を三冊まとめて読に差し出した。言わんとしていることは「当然わかっているだろう?」だ。 「はい。書物になる前の草稿、一行の詩、扇子に書き付けた短歌、絵画、電子データ、美術品……およそありとあらゆる情報媒体は潜在的に禁書となる傾向を持っています」 「制作者本人の手ずからの作品としての愛の手紙。禁書になるには十分な物語を持った逸品だよ」 メルロは頷く。良、と採点される内容だったようだ。そのまま詩を詠い上げるように言葉を舌に乗せる。 「これは以前書庫にやってきた西欧出身の魔法使いから聞いた話なんだが」 メルロは記憶を探るように黒葡萄色の瞳を伏せて話し始めた。 クラクフレーン家の令嬢クラリモンドは、蜜蝋色の柔らかな巻毛と海の色を色をした瞳を持ち、それは美しいと評判だった。 彼女を一目見て恋に落ち、求婚を申し込まない男は皆無だった。 貴族令嬢の御多分に漏れず、クラリモンド嬢に近づこうとする男には、父であるクラクフレーン卿が厳しい目を光らせていた。大事な大事な一人娘には、忠実な執事と信頼できるメイドをつけて、片時も離れさせることがなかった。 住まいでも警戒は怠らず、クラリモンド嬢の部屋は屋敷の奥に構えさせた。中庭に面した部屋で、日の光はいっぱいに差し込むが、熱を上げた男が真下で愛を語るバルコニーも、忍び込むにお誂え向きの出窓もなかった。 このようにクラリモンド嬢の花の顔を拝むことは難しかった。塔に閉じこめられたプリンセスのようだと冗談混じりにささやかれた。それでも我こそはという伊達男や貴族の嫡男たちが彼女に愛をささやき、妻とすることを望んでいた。 クラクフレーン卿が天国の門もかくやと言うほどの強固な警戒をしいていたクラリモンド嬢の身辺だが、ひとつだけ抜け道があった。手紙である。 クラリモンド嬢宛に届く手紙に、クラクフレーン卿はさほどの警戒を払うことはなかった。娘宛の手紙を盗み見る卑怯な振る舞いはしなかったし、むしろ、娘と文通を続けられる青年の方が、やれ贈り物だのエスコートだのと娘のそばを飛び回る無神経な輩よりも余程上等な人間だと考えていた節があった。 クラリモンド嬢が夜、ランプの暖かな光の中で硝子ペンを走らせては物思いに沈んでいたり、屋敷の使用人が郵便配達夫に束になった手紙を手渡す様子は、屋敷の日常風景であった。 クラリモンド嬢の文通相手にパトリック・ウィズビーという青年がいた。 下町の新聞社で働く勤労青年で、クラリモンド嬢の家柄から見れば随分と格下と評さざるを得ない。 しかし、噂に聞こえたクラリモンド・クラクフレーン嬢が文通好きであること、その門戸は誰にでもーー彼女が納得できる手紙を書くことのできるものにならばーー開かれていることを知ったウィズビー青年は迷うことなく渾身の文章を便箋にしたため、その才は見事クラリモンド嬢の眼鏡にかなったのである。 ウィズビー青年からの手紙は必ず「愛しのクラリモンド・クラクフレーン嬢」の書き出しで始まるのが常であった。手書きにも関わらず、すべての手紙に判で押したように寸分違わぬ文字が綴られている様子は、ウィズビー青年の几帳面さとクラリモンド嬢への思いの強さを見る心持ちになる。 クラリモンド嬢はウィズビー青年の手紙を気に入り、熱心かつ丁寧に返事を送った。顔も定かでない青年が送った手紙からその人となりを読みとり、便箋の限られた文字数の中で話題や思い出を共有し、文字で心を通わせ合う。微笑ましい手紙のやり取りが積み重なった。 つつましい文通に影が差したのは一発の銃弾によってだった。 サラエボの銃声が全ヨーロッパに鳴り響き、戦争が前世紀までの牧歌的な仮面をかなぐり捨てた。一国が持つ一切合切を戦争のために投入する無限蛇めいた怪物の姿を露わにした。欧州大戦である。 ウィズビー青年も徴兵され、戦場へと運ばれた。それでも彼はクラリモンド嬢に手紙を書き続けた。彼は新聞社での勤務経験を買われ、最前線ではなく通信兵として拡大する戦線を把握するための軍務に従事した。その軍務の合間に、時間を見つけては書き、書いては祖国で銃後を守っているクラリモンド嬢のことを思い、また書いた。 戦地のこと、返事はおろか届くことすら危ぶまれる状況だったが、それでもウィズビー青年、いまやウィズビー通信伍長は手紙を書いてはクラクフレーン卿の屋敷宛に送り続けた。 手紙は積み重なっていった。文字通りに。 返事を書かれることも、封を開けられることもなかった。ウィズビー青年が戦地から必死の思いで届けた手紙はクラリモンド嬢の手に取られることはなかった。 開戦から5ヶ月が経ち、戦地の兵士が今年のクリスマスに帰国することを諦め始めたころ。クラリモンド・クラクフレーン嬢はその生涯を、あまりにもあっけなく閉じていた。死因は、数年後に大流行を起こすスペイン風邪だった。 一人娘を失い、クラクフレーン家は悲しみに沈みこんだ。クラクフレーン卿も婦人もなかなか喪服を脱ごうとはしなかった。連日戦況のニュースが飛び込んできたが、卿と婦人が悲しむのは祖国のために散った崇高な兵士のためではなく、何の前触れもなく若い命を失った娘のためだけだった。 戦争が終わった。 戦勝パレードも、首相の演説も、賠償金も、国際連盟の理想も、クラクフレーン家には無意味だった。 変化は、娘の死と同じで突然やってきた。 文字通り火の消えたようなクラクフレーン卿の屋敷に再び死んだはずの娘が帰ってきた。 クラクフレーン卿と婦人は涙を流して喜んだ。棺桶に入れ、献花をし、牧師の祈りを信じられぬまま埋葬した娘。その娘が生きているときと同じままの姿で帰ってきたことに、両親は疑うこともなく歓喜の涙を流した。 クラリモンド嬢は少し首を傾げるようにして、両親に自分の部屋はどうなっているかを聞いた。もちろん彼女が亡くなったときのままに保たれていた。 クラリモンド嬢は変わった。贅沢を好み、奢侈を楽しみ、社交界に咲く大輪の花となった。一度は死んだはずの令嬢が社交界に舞い戻って来たことに、疑問を挟むものはほとんどいなかった。一度死んでいることすら、クラリモンド嬢にとっては魅力だった。「一度死んだ令嬢」クラリモンド・クラクフレーンは、上流階級の好奇の視線を一身に集め、それすらも噂と評判のミステリアスなヴェールに変えて、その名声を揺るぎないものにした。 生前はクラクフレーン卿の頑張りもあってパーティなどへの出席も最小限だったクラリモンド嬢は、人が変わったように着飾り、豪遊し、あまたの貴族や紳士と浮き名を流した。 パーティで参列者に振る舞われる豪勢な食事、謂われのある高価な酒、珍しい植民地の物産、煌めくばかりのドレス、装飾品。クラリモンド嬢の一声で、目が飛び出るような金額が一晩で動き、消費された。 かつて夜遅くまで文通相手のことを思いながら、花模様の漉いてある便箋に硝子ペンを走らせていた令嬢の面影はなかった。引き出しにぞんざいに仕舞われたインクは壷の中で腐り、硝子ペンは不注意な使用人が掃除中に割ってしまった。 贅沢の限りを尽くしたクラリモンド嬢の生活は当然長くは続かなかった。借金は転がり落ちてゆく雪玉のように膨れ上がった。 名家の信用で金を貸した銀行と投資家は我先に換金できる家財を差し押さえては持ち出し、屋敷の中はどんどん空きが増えていった。 クラクフレーン家は急速に没落した。給金が払えず、使用人は次々に辞めていった。クラクフレーン卿は金策に走り回ったが、無理が祟ったのか、急性心臓発作でこの世を去った。婦人は夫の死にショックを受け病がちになり、寝たり起きたりを繰り返した後、衰弱するようにして亡くなった。がらんと広くなった屋敷に、クラリモンド嬢だけが残った。しかし、彼女は生活を改めはしなかった。 それからしばらくして、クラリモンド嬢は非業の死を遂げた。彼女にもてあそばれた若い芸術家が下手人だった。屋敷に戻る帰途、ちょうど馬車から降りたところを襲われた。よく研いだペイントナイフで顔から胸部腹部にかけてめった刺しだったという。 芸術家は油絵に使う溶剤をかぶって焼身自殺を遂げようとしたが死にきれず、己の上半身とクラリモンド嬢の屋敷の入り口に小火を出して病院に運ばれた。 出血多量で事切れたクラリモンド嬢は二回目の死亡を確認された。遺体の引き取り手がいようはずもなく、埋葬をするだけの蓄えも尽きていた。クラリモンド嬢の遺体は場末の共同墓地に、投げ込まれるように埋葬された。 ウィズビー通信伍長は幸運にも欧州大戦を生き延びていた。しかし、戦地から戻った後のウィズビー青年が幸運であったとは言いがたい。彼は戦争後遺症に悩まされ、故郷でまともな仕事に就くことができなかった。下町の下宿屋の屋根裏部屋に閉じこもるように暮らしていた。部屋からまともに出ることはなく、閉め切った部屋からは日がな何かをぶつぶつとつぶやく声や聞こえていた。 ある夜、ウィズビー青年は戦地から持参した錆び付いた拳銃で自殺を遂げた。最後に一発だけ残った弾丸で頭を打ち抜いた。その顔は幸せそうに笑っていたそうだ。 彼が死んだ部屋の狭い机の上には、使い込んだ万年筆と「愛しのクラリモンド・クラクフレーン嬢」の書き出しで始まる便箋が一枚だけ乗っていた。判で押したように寸分違わぬ筆致だった。 階下の下宿屋の主人が、銃声が聞こえる直前、ウィズビー青年と楽しそうに話す女の声を聞いた気がするという証言をしていた。しかし真夜中のこと、担当した捜査官はこの証言を取り上げることはなかった。ちょうどウィズビー青年が死んだ時分、クラクフレーン屋敷では小火騒ぎが起こっていたのだが、この捜査官は二つの事件の関連性について、当然のように一顧だにしていない。 クラリモンド嬢が死んで、クラクフレーン屋敷は急速に寂れた。残った家財は情け容赦なく運び去られ、庭木のたぐいまで根こそぎ持ち出された。誰ともなしに屋敷の解体案が出された。人足夫たちがやってきて、食肉を切り出すように屋敷をばらばらにした。クラクフレーン卿の屋敷があった土地は更地になり、現在は縁もゆかりもないグリーントラスト会社の用地となっている。 クラリモンド嬢が生き返ったこと、これは禁書の仕業だったと考えられている。 クラリモンド嬢とウィズビー青年の積み重ねられた手紙が、禁書《愛しのクラリモンド・クラクフレーン嬢》を作り出したのだ。 禁書がクラリモンド嬢が作り上げていた人間同士のつながりに入り込み、悪意の毒で運命を腐らせ、人々を破滅につき落とした。己の物語を押しつけて支配する禁書の常套手段である。 「その手紙だよ」 メルロが無造作に読の手元を指さしたので、思わず凝視したのち「えぅっ」と呻いて両手を離した。 古びて変色した手紙の束が紐で括ってある。括り方が甘くて揃えたはずの封筒の端がずれている。よく見れば束の上の方は模様を漉かし込んだ上等な封筒のようだが、下の方は藁半紙のように粗末な紙でできた封筒ばかりだった。 「これが?」 「《愛しのクラリモンド・クラクフレーン嬢》。ひとつの家を歴史から消滅させ、二人の青年を破滅させた禁書だよ」 読はもう一度まじまじと手紙の束を見た。 では、禁書が模写した本物のクラリモンド嬢はどのような人物だったのか。それに答えを示すのは困難である。 クラリモンド・クラクフレーンという女性の記録は、驚くほど残っていない。 社交界で聞いた噂として、当時の人間が日記など個人文書に記録した内容は残っている。しかし信憑性の高い公的な記録となると皆無と言っていい。彼女の存在を証明する決定的な記録が存在しないのだ。 家人の残した記録も存在しない。禁書となったクラリモンド嬢の豪遊で、クラクフレーン家は文字通り一銭も残さず没落してしまった。クラリモンド嬢殺害時の小火は、屋敷に大きな損壊こそなかったが、発生した煤が書斎に入り込み日記や書き付けを真っ黒に汚した。読みようのない煤だらけの書物は屋敷の解体時に真っ先に処分された。 クラリモンド嬢は遺体が埋葬された場所さえわからない。遺体が投げ込まれた共同墓地は、当時こそ場末の一角にあったと記録されているが、現在はその地域は高層ビルが立ち並ぶ界隈になっており、墓地があったと推測される場所には名のある銀行の本社ビルが建っている。 生き返ったクラリモンド嬢は、死体を利用したのか、新品の肉体を構築したのか、はたまた魔法的存在であったのか、もはや知りようもない。 つまり、当時クラクフレーン家に女児ありという事実を語ってくれるくれるのは、世界にこの手紙の束だけである。娘につく悪い虫を警戒するクラクフレーン卿の様子も、屋敷の間取りも、生き返ったのちの奔放な振る舞いも、すべて手紙の記述に依っている。 手紙が禁書を生んだことは間違いない。それでは生まれた禁書は、いずれの人間の願いを聞き届けたことになるのだろうか。 若くしてはかなく命を落としたクラリモンド嬢の無念だったのだろうか。一人娘を亡くし嘆き悲しんだ両親の無念だろうか。それともウィズビー青年の一方的な恋心だろうか。はたまた名もない芸術家青年のかなわぬ恋への絶望だろうか。 手紙はあくまで、前半はクラリモンド嬢とウィズビー青年の交流を、後半はただウィズビー青年のクラリモンド嬢への思いを、記しているだけである。 「我々は、悪の権化をこうやって後生大事にしまっておくことしかできないわけだ」 メルロは表情は動かさないままに、肩をすくめた。仕草と表情がシンクロしていないので、呆れているのかポーズなのか判別がつかない。 「『すべての禁書は悪であり、悪をこの世から消し去ることはできない。禁書はすべからく封印を施し大法典の完全なる監視下に置かれるべし』」 読は大法典の魔法使いが最初に暗記する憲章をそらんじた。メルロが頷く。可、という意味だ。 「書かれてしまった以上、この世界から事実を消し去ることはできない。情報のエントロピー、拡散現象をくい止めるには、我々がすべての禁書を監視下に入れる必要がある」 メルロはさも当然のように言うが途方もない話だ。読はその務めの膨大さを思うと、くらくらしてくる。一瞬だけ力の抜けた脳内に、根拠のない案がひらりと飛び込んできた。 「この書庫のどこかに、そのクラリモンドさんの資料があるでしょうか」 「どこかにはあるだろうね。しかしそれを捜し当てられるかはわからないな」 ちらりと流し目を向けてくるメルロの、その言外の言葉は「本当に試す気があるのかい?」 「……やめておきます」 「賢明だね」 ここはアレクサンドリア図書館の書庫。 世界のかつて書かれた、そしてこれから書かれるであろうすべての本を所蔵する場所である。
グラフィックデザイナーがドキュメントをデザインするにあたって特に重要な要素を「Color(カラー)」「Contrast(コントラスト)」「Repetition(反復)」「Arrangement(ア
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聴いてみた。ずんずん来るバス、叩きつけるような歌い方、なかなか面白い。そしてマリリン・マンソンの存在感!
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