Mentor Shot
1. 夜。街灯が淡い光を落としている。 神崎真治は、公園の遊歩道を歩いていた。
つい先ほどまで、彼は『ブレイブサンダー』の少年たちに稽古をつけていた。 まだ子供の彼らが、ヒーローとなって、世界を脅かす悪と戦わねばならないという過酷な現実。 彼らを支え、彼らに戦う術を与えること。 それが、今の神崎の役目だった。
特に、チームのリーダーである陽太のことは、気にかけていた。
陽太の父親は、神崎にとって親友であり、そして戦友でもあった男だ。 彼は、陽太が物心つく前に、行方不明になった。 彼が失踪して以来、神崎は陽太の傍に寄り添い、師匠として、そして、時には父親代わりとなって、少年の成長を見守ってきた。
「さて、今日は脚のトレーニングでもするかな」
そんな独り言を呟きながら、神崎は肩を回した。
42歳という年齢にして、彼の肉体は全盛期と変わらぬ隆々たる筋肉に覆われていた。185cmの長身に、100kg近い体重。その大半が筋肉で構成されている。
彼は、二つの顔を持っていた。 神崎道場の師範としての顔。 そして、スーパーヒーロー『グレイトダンディ』としての顔だ。
彼は、40代前半にして、今もなお、現役のヒーローとして戦っている。 道場では師範として弟子たちからは慕われ、同業のヒーローたちからは信頼を寄せられている。地に足のついた、成熟した大人の男だ。
だからこそ。 夜の公園の滑り台に腰かけている少年の姿を見たとき、神崎は足を止めた。
陽太とそれほど変わらない年齢だろうか。 艶やかな黒髪に、陶器のように白い肌。 しかし、その瞳には、ゾッとするほど深い闇が宿っていた。
神崎の全身に、緊張が走った。
少年の周囲の空気が歪んでいる。 まるで、現実そのものが少年を中心に捻じ曲げられているかのように。
邪悪なエネルギーの波動。 それは紛れもなく、敵対者の気配だった。
「おじさん」
少年が、無邪気な声で呼びかけた。
「おじさんって、グレイトダンディでしょ?」
神崎は表情を変えずに、少年を見据えた。 既に、いつでも変身できる態勢を整えている。
「俺を知ってるのか」 「もちろん。テレビで見たことあるよ」
少年は滑り台から飛び降ると、神崎に近づいてきた。
「マッチョでかっこいいなって、ずっと思ってたんだ」
その笑顔は、年相応の子供のものだった。 しかし、その奥に潜む気配は、到底子供のものとは思えない。
「ねえ、おじさん。僕の兵隊に加わらない?」
少年は、遊びの誘いでも持ちかけるような軽やかさで言った。 神崎は、問いかけには答えずに、深く腰を落とした。
「坊主、怪我をするぞ」
それは純粋な善意からの忠告だった。
少年ヒーローたちを育ててきた神崎にとって、子供は守るべき存在だ。 たとえそれが敵対者であっても、できることなら傷つけたくはない。
しかし、少年は首を傾げて笑っただけだった。
「怪我? 僕が?」
神崎は、静かに息を吐いた。そして告げる。
「これが、最後の警告だ。やめておけ」
だが、少年は神崎の言葉を耳に貸すことなく、無邪気な笑みを浮かべたまま一歩、また一歩と近づいてくる。
神崎は、覚悟を決めたように、右腕を掲げた。 腕に装着した変身デバイスが、月明かりを反射して鈍く光る。
「変身ッ!」
閃光。 瞬時に、神崎真治の肉体は『グレイトダンディ』の姿へと変貌を遂げた。
漆黒のスーツが筋肉質な肉体を包み込む。 胸板の厚み、腕の太さ、脚の逞しさ。 彼の鍛え上げた肉体が際立つデザインのヒーロースーツを身にまとう。 その表情には、威厳と経験が宿っていた。
「グレイトダンディ、見参」
構えを取りながら、神崎は低く告げた。
「相手が子供でも容赦はせん。覚悟しろ」
その姿を見て、少年は瞳を輝かせ、無邪気に笑った。
2. 午前10時。 神崎道場の稽古場には、凛とした空気が張り詰めていた。
「押忍ッ!」
『ブレイブサンダー』のリーダー、陽太の声が響く。 白い道着に身を包んだ少年は、師匠である神崎の正面に座していた。
「よし、今日も気合が入ってるな」
神崎は満足げに頷いた。 その姿は、いつもと何ら変わりない。堂々たる体躯。威厳のある佇まい。 そして、頼れる師匠の顔。
「師匠、今日は組手ですか?」 「ああ。お前も最近、だいぶ形になってきた。そろそろ実戦形式で——」
神崎の言葉は、よどみなく続いた。 陽太は、師匠の言葉に真剣に耳を傾けながら、いつも通りの安心感を覚えていた。
父が行方不明になってから、神崎師匠は父親代わりだった。 厳しくも優しく、いつも自分を導いてくれる存在。 『ブレイブサンダー』としての活動においても、神崎師匠の助言は不可欠だった。
稽古は厳しくも充実したものだった。
神崎の動きは、40代とは思えないほど切れがある。 陽太の攻撃を的確にいなし、反撃の隙を見せない。 しかし同時に、弟子の成長を促すような指導も忘れない。
「今のは良かったぞ、陽太。だが、踏み込みがまだ浅い」 「押忍!」
汗が飛び散る。息が上がる。 それでも陽太は、師匠の期待に応えようと必死だった。
「よし、十分休憩だ」
神崎が告げると、陽太は道着の袖で汗を拭いながら、壁際に座り込んだ。 水筒に手を伸ばし、冷たい水を喉に流し込む。 その視界の端で、神崎がゆっくりと立ち上がるのが見えた。
何の変哲もない、日常の一コマ。 神崎は何食わぬ顔で稽古場を出ると、廊下を進み、男子トイレへと向かった。
3. 男子トイレの個室。 神崎真治は、静かに鍵を閉めた。
道着を脱ぐ。帯を解く。 下に着ていたシャツを頭から抜く。
露わになった肉体は、まさに彫刻のようだった。 42歳とは思えない、隆々とした筋肉。 腹筋は深い溝を刻み、胸板は岩のように盛り上がっている。
しかし、その肉体には、異様なものが加わっていた。
乳首。そこには、ステンレス製のピアスが光っていた。 稽古の最中は道着に隠されて見えなかったが、確かにそこにある。 金属の輪が、発達した大胸筋に食い込むように装着されている。
そして、下半身。
神崎が最後に残っていた下着を脱ぐと、その下から現れたのは、ボディビルで使用されるポージングトランクスだった。 極めて面積の小さい布地が、彼の男性器をかろうじて覆っている。 その布地の前面は、既にうっすらと湿り気を帯びているようだった。
神崎は懐からスマートフォンを取り出し、ロックを解除した。 ホーム画面。
そこに設定されている画像を見て、神崎は瞳を細めた。
画像には、公園の滑り台が映っている。 その滑り台の上で仰向けに全裸の男が倒れている。 その男は、神崎自身だった。
画像の中の神崎は、白目を剥いて失神していた。 筋骨隆々な肉体が、一糸まとわぬ状態で、惜しげもなくカメラに収められている。 その逞しい腹筋の溝には、白濁した体液が溜まり、ストロボの光を反射している。 これが射精した直後の写真であることは明らかだった。
神崎は、その画像を数秒間見つめた後、スマートフォンを便器のタンクの上に立てかけた。カメラを起動し、インカメラに切り替え、録画ボタンを押す。
そして、神崎真治は、個室の中でカメラに向かってポージングを始めた。
両腕を曲げ、上腕二頭筋を隆起させる。 フロントダブルバイセップス。 ボディビルの基本ポーズだ。 発達した筋肉が、照明の下で美しく浮かび上がる。
続いて、腹筋に力を込める。 アブドミナル・アンド・サイ。 深く刻まれた腹筋の溝が、さらに鮮明になる。
神崎は、カメラに向かって笑みを浮かべている。 ボディビルダーがステージで見せる、あの独特の笑顔。 歯を剥き出しにし、頬を持ち上げ、目を細める。 しかし、その瞳の奥には、恍惚とした陶酔が宿っていた。
「グレイトダンディこと、イカ臭ソルジャー99号」
神崎は、声に出して言った。 その声は、稽古場での威厳ある彼の声と何一つ変わらない。
ポーズをサイドチェストに変える。 巨大な胸筋が、まるで鎧のように隆起する。 乳首のピアスが、その動きに合わせて揺れた。
「ナオト様だけのマッチョなヒーローです」
その言葉を口にした瞬間、神崎の股間がピクリと跳ねた。 ポージングトランクスの中で、ペニスが脈動している。
「本日もナオト様に忠誠を誓い——」
最後のポーズ。 モストマスキュラー。 全身の筋肉を極限まで収縮させ、その力強さを誇示する。 42年かけて鍛え上げた肉体の、その全てを見せつけるように。
「——本日もチンポのイカ臭さを、維持しますッ!」
宣誓。 その瞬間、神崎の巨躯が、ビクンと痙攣した。
「んあッッ……!」
白目を剥く。 口から涎が垂れる。 全身の筋肉が意思とは無関係に収縮し、痙攣を繰り返す。
そして、ポージングトランクスの前面に、染みが広がり始めた。
ハンズフリー。 何も触れていない。 しかし、神崎真治は射精していた。
白濁した体液が、小さな布地を瞬く間に濡らしていく。 溢れた分が太ももを伝い、膝へと流れ落ちていく。
「ふ……っ、く……っ……」
肩で息をしながら、神崎はゆっくりとポージングを崩した。 スマートフォンを手に取り、録画を停止する。 そして、流れるメッセージの履歴を選択して、撮ったばかりの動画を送信する。 送信完了の通知を確認し、神崎は静かに頷いた。
神崎は、太ももを伝い流れている体液。 それを、右手で丁寧に掬い取る。 そして、その手を、自分の腋に押し当てた。
左の腋。右の腋。 交互に、丁寧に、自らの精液を擦り込んでいく。 まるで、香水を纏うかのように。 いや、実際にそれは彼にとっての「香水」だった。
作業を終えると、神崎は道着を着直した。 シャツを着て、道着を羽織る。 帯を締め直して、個室を出る頃には、いつもの「神崎真治」がいた。 威厳があり、頼もしく、弟子たちの模範となる男。 昨夜、公園で少年に敗北し、屈服したことなど、微塵も感じさせない。
神崎は個室を出て、手を洗い、稽古場へと戻った。
4. 「よし、休憩は終わりだ」
神崎の声が響いた。 陽太は素早く立ち上がり、姿勢を正す。
「押忍!」 「次は型の稽古だ。いいか陽太、型というのはな——」
神崎の指導は、いつも通り的確で、厳しく、そして愛情に満ちていた。 弟子の動きを一つ一つ確認し、修正を加える。時に叱咤し、時に褒め、少年の成長を促していく。
「そう、そこだ! 今の動きを覚えておけ!」 「押忍!」
陽太は必死に師匠の言葉を吸収しようとしていた。 いつか父のように、いや、師匠のように強くなりたい。その一心で。
神崎は、弟子の真剣な眼差しを見つめながら——
さりげなく、自分の腋に鼻を近づけた。 嗅ぐ。確認する。
あの匂い。自分の精液の匂い。 それがまだ、確かにそこにあることを確認する。
神崎は目を細め、先ほどの射精の快感を反芻する。 しかし、それはほんの一瞬のことだった。 すぐに、いつもの厳格な師匠の顔つきに戻っている。
「陽太、腰が高いぞ! もっと深く落とせ!」 「押忍ッ!」
日常は続く。 何も変わらない日常。
稽古場に、熱の入った神崎の声が轟く。 師匠という仮面の、その下で何が起きているのかなど、誰も知る由もなかった。














