「青い子とツィード」
もう10年近く前だ。お客さんからトライアンフのスピットファイアを預かっていたことがある。「しばらく乗って」と言われ、やってきた水色のその車は、相方から「青い子」と呼ばれ半年ほど家にいた。ブリティッシュライトウエイトのオープン2シーター、年式は70年代半ばのものだったから当時でもすでに30年が経過した車だった。
私は「青い子」がいる間、この時とばかりに車と洋服のコラボを楽しんだ。夏は麻のシャツやジャケット、冬はツィードジャケットやハーフコート・ハンチング・グローブの「フル装備」ドライブといった具合である。好きだったのは、やはり秋冬。この季節は小物が増え、いわゆるフルアイテムを使った車と乗り手の「雰囲気」を、上手く作ることが出来たからだ。当時信号待ちで幾度か声を掛けていただくことがあった。出で立ちが功を奏したのかどうかは分からないが、車を共にした私なりの「演出」が悪くなかったということなのだろう。50代半ばの今なら、あの頃以上の着こなしで上質なドライブが出来るのではないかと思ったりしている。
実家の母親は「初めて天井が無い車に乗った」と喜んだ。相方は、髪が乱れ化粧が取れても「青い子」と呼び隣に乗った。おおよそ実用とはかけ離れた車だったが、カエルを潰したと揶揄された小さな2シーターは以外にも皆に好かれていたようだった。私を含め、一時の間でも楽しい時間を共有させてくれた「青い子」、そしてそんな貴重な経験の機会を頂いたオーナーには今でも深く感謝している。
8月終盤。梅雨明けが遅れたことで、今年も残暑が続く。近年「秋」を感じることがめっきり減ってしまったように感じるが、落ち葉が舞う季節は短いながらも必ずやって来る。そんな時節に備えるべく、今回顧客の皆さまへのニュースレターは「ツィード」をテーマにしたものを準備した。ツィードはその定義を「手紡ぎの紡毛糸を平織で双糸の綾に織ったスコットランド特産の毛織物」としている。その使用目的は、敷物や掛け物あるいは人の身体を守る衣類であるが、生産過程の根幹となる羊の生育地、糸染め、紡績にはスコットランドの自然が大きく関わっている。レターは、ツィードの素朴な風合いや色合いに触れた相変わらずの抽象的な内容、稚拙な文章となっているが、お読みいただいた方には、ツィードにより一層の興味を持って頂ければ幸いである。
ここ数年自分のツィードを持っていない私は、この冬ジャケットを新調しようと思っている。
「そなえよつねに」
ボーイスカウトは準備に怠りがあってはならない。いつ何時「青い子」のように五感を刺激する車がやって来るかもしれないのだから。
注文服ヤマキ 木下 達也














