「Altec 604Bというスピーカーは何か?」というのは、少し込み入っている。
まず、このスピーカーの格好を見ると、大型の紙コーンを持つスピーカーの真ん中にホーンがある。こういう設計の仕方には、専用の名前がついていて「同軸設計」という言い方をする。つまり2種類の役割の異なるスピーカーユニットを一つの軸上に中心が揃うように組み合わせてデザインしているのだ。
紙コーンのスピーカーは開口の直径が15インチ(約38cm)ある。低音を鳴らすのに都合の良い設計になっている。この紙コーンのスピーカーが再生する音の周波数は、再生下限から1kHzまでである。
それに対して中心のホーンを駆動しているスピーカーは、やや専門的にいえば「ドライバー」と呼ばれるアルミ製の振動板からできていて、普通は目に見えない取り付け位置に設置されている。それはどこかといえば、紙コーンのスピーカーの磁気回路のさらに後方である。アルミの振動板からなるこのスピーカーの受け持つ音の周波数は、1 kHzから再生上限までである。
音の周波数をいうのに、再生下限とか再生上限とか歯切れが悪いが、それは「箱と部屋の設計が変われば」変わるからである。
低音の下限は、おそらくこのスピーカーを箱に入れずにポンと床に置いて測定したら、100Hz近辺になるのではないか。しかしかなり大型の箱に取り付けると、40Hzくらいからはなんとか聴ける音がでる。
それよりも低い周波数の音も再生はできるのだが、元の音源で収録された本来の音の大きさに比べて、減衰して小さな音になってしまう。
一方、高音の方は、部屋に大量の本でも積んであると、15 kHzあたりで減衰が始まる。その反対に硬いフローリング材や、コンクリートの壁面などの条件が揃えば18 kHzくらいは出せる設計になっている。
マニアの人がこういう同軸型のスピーカーを買うとなると、まず気になるのが、設計の元になったユニットのことである。
どんな設計の腕がいい会社も、いきなり同軸型のスピーカーだけを設計したら、数多く売ることができない。
同軸型の設計は、それほど需要が見込めるものではなく、録音スタジオの再生確認用など、比較的用途が限定されているからである。
そこで、メーカーは、まず、単一設計の紙コーンの大型スピーカーと、単一設計のアルミ振動板のドライバーを持つホーン型のスピーカーを量産して、売ってみて評判が良い組み合わせを選んで、同軸型のスピーカーという複雑な構想に挑戦することになる。
そうしてみると、マニアの中でも評判が高いAltec社の38 cm口径のスピーカーには系譜があって、515形式と416形式というのがある。それぞれマニアの間で、こっちが良いという意見はあるが、磁気回路がパワフルなのは515形式の設計である。604Bの低音用のスピーカーにはこの515形式が転用された。
一方、高域を受け持つドライバーとホーンにもAltec社は数々の優れた設計を世に送り出している。ただし、アルミ振動板の直径が設計の基準になっていて、大抵は直径で1インチ、1.5インチ、2インチである。
同軸型の設計をすると、コーン型のスピーカーの中心軸をくり抜いて、ホーン型をガチャこんと組み合わせるので、アルミ振動板の小さい方がフィットしやすい。Altec社には1インチの振動板を採用した名作のドライバーがあって、802形式の設計と言われている。604Bの高音担当には、これがそのまま転用されている。しかし、ホーンだけはこの狭い空間に無理矢理押し込めるものは他に無く、専用の設計である。
この604Bというスピーカーは設計された年代が割合短いため、製造シリアル番号から出荷時期を想像することも難しく無い。このスピーカーの製造シリアル番号は610番という3桁である。そうすると製造は1951年内で、出荷されたのはその後のどこかであろう。1950年代にどこかの録音スタジオのモニター用に使用されたのだとしたら、当時の多くの名曲がこのモニター装置を通ってチェックされて、当時のモノラルLPレコードにカットされたのかもしれない。そういう想像も楽しい。