“10年ほど前、母がゾンビみたいな子猫を拾ってきて色々と大変だった ある日大学から帰宅したら台所に大きなケージがあって、そこから異臭が漂ってて、小動物の腐乱死体のようなものがタオルにくるまれてそこにいた よく見るとそれは毛が抜けて皮膚が膿み、顔も目ヤニや膿だらけでがりがりに痩せこけたゾンビじみた子猫だった 唖然としてたらそばにいた母が 「可愛いでしょ?」 とニコニコしながら言ってきた なにこれと聞いたら買い物に行った帰りに車道に子猫が寝てて、そのままだと危ないなと思って 拾ってみたところ、病気みたいだったから獣医さんのところに連れて行き、さらに飼育器具一式を買ってきて連れて帰ったとのこと 飼うのかと聞くと 「しょうがないじゃない!ほっといたらこの子死んじゃうわよ絶対!」 とのこと すでに死んでるんじゃないの?と思ったけどよく見ると胸が上下してるし、話声が聞こえたのかわずかに顔を動かして 痙攣しながら口を小さく広げた(鳴き声を上げようとしたんだと思うけど全然音は出なかった) それからが大変だった 獣医さんによると寄生虫に寄生され、皮膚病やその他の病気にも感染してる しかし現状では栄養失調で体力がないために薬を与えると副作用で確実に死ぬ 皮膚が膿だらけだけど体を濡らすのも厳禁なので洗うこともできない できることは栄養剤をスポイトで飲ませつつ体温が下がらないように保温し続けるしかない なので電気アンカをタオルで巻いてその上に子猫を寝かせてさらに上物のタオルを布団にして、温度が下がったり上がりすぎないように温度計を一緒に入れて保温しつつ、水や栄養剤を飲ませて 下半身にはペーパータオルを巻いてウンチやおしっこをしたら交換して、タオルも膿で汚れるから定期的に交換して、というのをずっと続けることになった 恥ずかしながらそれまでは家事は多少の手伝いはしてたもののほぼ母にまかせっきりの一家だったけど そうなると猫の面倒が見れないということで俺や兄弟(休日は父も)で家事をやったり猫の世話も手伝ったりした ずっと母が猫を見てると夜眠れなくて母が体調を崩すだろうからと夜は若い俺や兄が交代で様子を見たりした 母がその子猫にすっかり感情移入しちゃってるから一応俺たちも一緒に世話をしてたけど 正直、四足で立ち上がることも鳴き声を上げることもできない状態だったからとても助かるとは思えなかった なので、死んじゃったら母さんすごくショック受けるだろうな、と兄弟で心配してた 最初の一週間は体重は横ばいで回復の予兆もなくてもうだめかなって思ってたんだけど、それから段々体重が増え初めて 少しずつ自力で動けるようになってきた さらに皮膚病が治り始めて抜けてた毛も生えはじめた そして体力が戻って来たので寄生虫の虫下し等の投薬治療をすると急速に元気になり 皮膚病も完治して毛も完全に生えそろい、獣医さんのところで全身を洗浄してもらったおかげで 顔にこびりついた目ヤニも除去された結果、臭いもなくなり活発に走り回るぱっちりお目々の可愛らしい茶トラの子猫になった 正直なところ俺たちは皮膚病の猫は臭いしウンコおしっこや膿が汚いしでしかめっ面で嫌々世話をしてたのに 母だけは全然嫌そうなそぶりもなく優しく世話をしてて、どうしてそんな風に世話ができたのかと聞くと 母曰く 「あんたらだって赤ちゃんのころはあんなもんだったのよ。 今さら子供の病気やウンチくらいで怯んでられないわよ」 とのことだった 母は強い、と実感した 最初にみんなで世話をしたせいか猫は甘えん坊で人間にくっつくのが大好きな性格になった よく猫はベタベタ溺愛されるのを嫌がるというけど、うちの猫は逆に一日にそれなりの時間ベタベタ溺愛しないと怒る子になった 抱きしめられたり撫でまわされたり膝の上に乗るのが大好きで人間との接触を全然嫌がらない トイレもすぐ覚えたし、人間のご飯に手を出さないいい子だった 俺が就職して家を出てから一年ぶりに帰省した時、もしかしたら猫に忘れられてるかもと思ったけど 猫は昔のように一目俺を見た瞬間に駆け寄ってきてゴロゴロと甘えてきた 家族以外のお客さんには警戒して近寄らないんで、確かに俺を覚えてたんだと感動してしまった そして母はよく猫を抱いて 「この子が死んじゃったら悲しくて新しく飼うのは無理かも」 と言ってたんだけど 猫は元気いっぱいだったのにその母が数年後に癌で急死してしまった 母の葬儀後、猫は数日ほど分離不安のような状態になって、元々甘えん坊だったのに 普段以上に誰かとべったりくっついてけして離れようとしない状態になってしまった 俺の会社は親族が亡くなった場合特別有休が出るので葬儀後しばらく実家にいたんだけどずっと俺にくっついてた 父が言うには母が入院中はそんな状態じゃなかったので、母の死の影響というよりは 母の死で落ち込んでた俺達の変化を感じ取ってそうなったんだろうということだった 母は亡くなる前の日も俺や兄貴の心配ばかりしてて俺達には弱音ははかなかった 父の前では弱音を吐いたり泣いたりしてたそうだけど俺たちには全然見せなかった 俺はもうすぐ結婚するんだけど、この猫を撫でてると 俺は母みたいに子供の面倒を全力で見れる親になれるんだろうか、とかふと思ってしまう もしも自分の子供がゾンビみたいになっても嫌な顔一つせず愛情込めて精いっぱい世話できるのかなとか まだ実際に子供もできてないし今考えても仕方ないことかもしれないけど 別に自分が子供嫌いだとかそういう訳では全然ないんだけど 死にそうだった子猫をかいがいしく世話をしてた母の様子を思い出すと親ってすごいなって思う 健康になった猫が俺に懐いているのを見ると 「ごめん。実は俺は薄情で病気だったころのお前の世話は嫌々やってただけなんだよ」 と思うこともあります それを思うと介護職の方とかほんとにすごいですね 子猫ですら家族と手分けしても自分は心が折れそうだったのに でも少なくとも今この子が生きてて俺に懐いていることは確かだし、それを自信に思いたいと思います”
— http://kamibakusho.com/archives/51752294.html (via setsunai-mono)



















