冬美絶海の日記
冬美絶海を構成する詩、小説、哲学、批評、芸術、写真、絵、音楽、物、人、記憶、夢、幻想、国、花、あらゆるもののすべて。
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今一番お気に入りの組み合わせ。
絶海、ここはさむいよ。呼吸も出来ない。

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雲一つない 青空よりも 分厚い雲の切れ間から 見える青空が 好きだから 君は深い草の陰に 生まれて 君は深い草の陰に 死んでいく どこまでも自由な あの風の中で 見上げる青空よりも 鉄格子の窓越しに 見上げる青空が 好きだから 君は深い草の陰に 生まれて 君は深い草の陰に

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砂埃と 轢き殺した 風の悲鳴を残して 夜の帳へ去っていく 絶え間のない 自動車の流れが 暗く冷たい 死の川を形作っている 落ちた日の 薄明に包まれた車道 刻々と色褪せていく 無邪気な手紙の束 躑躅の植え込みと 固く沈黙する衛兵たち 木蓮の街路樹を挟んだ その脇の歩道では ちらほ
にんじん、ピーマン、ぶなしめじ、小松菜、高野豆腐を黒のすりごまと味噌、それにオリーブオイルであえて炒めたもの。それから蜂蜜ブルーベリー。美味しかった。
ひどく寒い。
悪寒の夏。
どんなお話なの?
2023年5月4日
麦わら帽子を被って、最近買った青色アロハを着て、短パンにブーツで玉川上水沿いの林道を少し散歩。温かさを通り越して暑いくらいの陽射し。風も、五月の風も時折吹いていて、その度に飛んでいきそうな麦わら帽子を手で抑えた。飛ばされてしまえばよかっただろうか。どこへ?もちろんゴッホの夏へ。「君に握手を贈る」毎回決まって締めくくりにそう書かれていた彼の手紙。林道は木々の草々の、青空へと太陽へと伸ばされた夥しい緑の握手に覆われ仄かに薄暗く涼しく、地面へと落ちた木漏れ日を横ぎる揚羽蝶や紋白蝶の黒い影。ちょうど去年の今頃はドイツ人の作家シュナックが書いた「蝶の生活」という本を読み始めた頃で、様々な蝶の成虫幼虫の挿絵入りでその生態が博物学的に生物学的に紹介されているだけでなく、それぞれの蝶との彼の出会いや蝶を巡る幻想的な小説の章まである、蝶という生き物に対する虫網を持って野原を駆け巡るかつての少年そのままの純粋な愛と憧れと詩情に溢れたその本を鞄に入れて仕事の行き帰りや今日のような散歩の途中、時間を見つけては僕も蝶の影を追っていた、まるでシュナックの魂が乗り移ったかのように。
ところで、「ゴッホの手紙」の中にも蝶が登場する。蝶ではなく蛾なのだけど、それは「死人の顔という蛾」で、
昨日は、死人の顔という珍しい大蛾を写生してみた。その色彩は、黒、灰色、陰影のある白や反射光のある洋紅色、かすかだがオリーブ緑色に転じた色で、たいそう大きい。 それを描くため殺してしまわなければならなかった。それ程蛾は美しかったので惜しかった。ーー硲 伊之助 訳「ゴッホの手紙 下」よりーー
背中に人間の髑髏の模様があるその大きな蛾の彼の素描を見たとき、これはたぶん半ばゴッホの想像或いは幻想で描かれた蛾の絵なのだと思っていたのだけど、その同じ蛾をシュナックの「蝶の生活」の後半の蛾の章で発見して僕は驚愕した。「死人の顔という蛾」は実在していたのだ。それは髑髏面型雀蛾(ドクロメンガタスズメ)という。
この蛾は埋没してしまった古代の夜の世界の最後の目撃者である。その恐ろしい紋章によってこの蛾は人間たちに死を、今なお存在する黄泉の国を思い起こさせる。ーー岡田朝雄 訳 シュナック「蝶の生活」よりーー
煙草を吸う。照明は天井に二つ埋め込まれている小さな電球色のLEDだけで薄暗い、小さな動物や昆虫をペットショップで買ったときに小さな動物や昆虫が入れられる二つの小さな空気穴が空いているだけの小箱のように薄暗い喫煙所で煙草を吸う。ぼんやりと浮かぶ闇の壁にもたれ掛かって煙草を吸う人の顔、その唇の先から指の煙草の先から流れる揺らめく煙は千変万化の軌道を描き、天井へ、まるであの天井の二つの円いLEDの光から出ていくように、地獄の底から見上げた高く高く厚い厚い天井に空いている小さな二つの出口、ここの住人には決して手の届かない小さな二つの出口、窓、裂け目、地上への出口へと流れていく煙かのように、煙を糸のように吐いて、その糸が吸い込まれていく、決してわたしを引き上げてはくれない、わたしが吐いた蜘蛛の糸の流れの先を見上げるわたしはきっと今ルドンの気球の眼をしている、重力を、わたしが重力に縛られた存在なのだと、私は重いのだと、つまりは地獄の底に居るのだと気が付かせてくれる、そんな喫煙所、でもね、地獄の底にも光るものがあって、それは二つの光源のちょうど真下に二つ置かれている灰皿、銀色に鈍く光る灰皿、水の張られた皿を円く囲って覆う銀の蓋が鈍く光っている、大概は捨てられた煙草と煙草の灰の山に埋まっているその二つの目玉と瞳、だけど、たまに掃除の人が来ることがあって、そのときは捨てられた煙草も煙草の灰も綺麗に除けられて、だから銀色の眼球の真ん中に張られた水が二つの瞳のように浮かぶ、でも、その二つのお皿は煙草の脂や錆で焦げ茶や黒茶や赤茶や朽ち葉色に染まっているから、その二つの瞳は冬の池の底、その秋に散ったたくさんの落ち葉が静かに安らかに沈み込んでいる冬の池のようで、電球色のLEDに照らされて琥珀色に輝き微かに揺らめくその瞳は穏やかな午後の陽が射し込む冬の池の底のようで、髑髏面型雀蛾の羽根、身体の色合いはちょうどそんな色をしている。わたしの部屋が、今も少しだけ置かれているけど、百花繚乱のドライフラワーに埋め尽くされたら、きっと真夜中に窓を叩いて飛んで来るだろう、髑髏面型雀蛾。しかしそのとき彼が背中に乗せて持って来るのはいったい誰の骸骨だろう?それはきっとわたし自身の骸骨だ。ゴッホはあの蛾の背中に彼自身の骸骨を見たのだ。もう彼は居なかった。それからしばらくして彼は死んだ。でも、もう既に彼は居なかった。最後の方に描かれている彼の絵はまるで煙で描かれているようだった。彼は死んで、煙になってその煙が彼自身の最期、骸骨を見ていた。わたしもその蛾を見たときにはもう居ないのだろう。真夜中に窓を叩く風。わたしの居ないドライフラワーが咲き乱れたわたしの部屋の中を気ままに優雅に不思議そうに舞う髑髏面型雀蛾。
わたしは わたしの居ない わたしの部屋で暮らしたい かつてそうだったように わたしは わたしの居ない わたしの世界を見てみたい かつてそうだったように

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金網のフェンス
夜明けの 駐輪場を囲う 金網のフェンス 出入り口の 穴だけを残して とっくの昔に 滅び去った 蜂の巣のような 金網のフェンスには 何処からか 風に流れてきた 落ち葉が一枚 詰まっていて それはまるで 手紙のよう ポストだけを残して とっくの昔に 取り壊された 誰かの家へと いつまでも 届き続けている 誰かの頑固な 手紙のようで 夜明けの 駐輪場を囲う 金網のフェンス ふわふわの 尻尾だけを残して とっくの昔に 死んでしまった 猫たちのような 猫じゃらしの草が寄り添う 金網のフェンスには 何処からか 風に流れてきた 落ち葉が一枚 詰まっていて それはまるで 言葉のよう もう永久に 開くことはない 誰かの凍った唇へと いつまでも 語られ続けている 誰かの頑固な言葉 或いは誰かの頑固な歌 誰かの頑固な祈りのようで 砂利の海が 朝の日に輝く いまだ眠り込み 昨日の夢 昨日の街 その彼方の荒野を 駆け回っている 自転車たちよりも早く 目を覚ました雀たち 何も知らない雀たちが 金網の穴を潜り抜けて 黒い瞳をきらきら 不思議そうに空へと飛び立つ
ーー題「金網のフェンス」
蛇の冷たさ。