世界中の誰よりもしあわせになれる
海に沈めて、お願い、と息も絶えだえにあなたが泣いて、私はここまできてしまったことを後悔しながら雨のそぼ降る音を聞き、シーラカンスもリュウグウノツカイもラブカも眠る頃、あなたの体が海の中をただよって無数のくらげや魚たちについばまれ、プランクトンのかけらになっていくことを想う。悲しみのやり場をなくしたせいで、あなたと裸足のまま夜の底までたどりついて、浴室の向こうで、あなたのスマホから何番目かの彼女の怒声が聞こえてくるのを無視してむさぼり合ったのが三時間前。朝日が昇った海でバスを降りて、夏の似合わない白い素足を海にひたして、人を傷つけておきながら、誰よりも自分が不幸だなんて顔をして、あなたは泣く。そのくせ詩も上手いのだから腹も立つ。詩を置き去りにすればいい。竜宮城だか、都があるのだか知らないけれど、海の底にある楽園まで泳いで、才能とひきかえに、足をヒレに変えてもらって、女の子たちとあきれるほど恋をして暮らせばいい。まるであべこべだね。あなたは水面を蹴る。好いた惚れたも脚本家が戯曲に仕立ててくれて、詩才がなくてもあなたはステージの主役でいられる。毎夜九時に舞台に立って拍手喝采を一身に浴びて、世界中の誰よりもしあわせになれる。地上で生きるのは向いていない。私がさとす間、あなたはもう一歩海の中へと進んで、やがてくらげに刺されたと泣きはじめる。







