蠟燭を奪われる
中川伝十郎氏から聞いた話だ。 提灯を点して夜道を歩いていると、何物かが提灯を突き上げて、火が消えそうになることがある。 このとき、ハッとして提灯をすぼめて蠟燭の火を覗き込むと、その隙に蠟燭を奪われてしまうという。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「四一、狐狸」)
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蠟燭を奪われる
中川伝十郎氏から聞いた話だ。 提灯を点して夜道を歩いていると、何物かが提灯を突き上げて、火が消えそうになることがある。 このとき、ハッとして提灯をすぼめて蠟燭の火を覗き込むと、その隙に蠟燭を奪われてしまうという。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「四一、狐狸」)

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狐の尾のままに
奈良県北葛城郡五位堂村の近村であったことだという。 あるとき、その村のとある家の息子が、田圃の中をあっちへ行ったり、こっちへ戻ったりしているのを、一人の村人が目撃した。 奇妙に思った彼が注意深くあたりを見ると、田の畦に狐が一匹座っているのに気がついた。 狐は尾を左右に振っている。それに従って若者も右往左往していた。 村人は若者の傍に行って「おい、どうしたんねや」と声をかけながら若者の肩を強く叩いた。 うつろな目をしていた若者がハッと正気を取り戻した。 今の今まで右往左往していたことは、まったく覚えていなかったという。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「一七、神かくし」)
コーカヤセ
大正二、三年のことだ。 奈良県北葛城郡五位堂村の、ある家で娘がいなくなり、騒動になった。 座敷に寝かしつけていたのに、夕方気づいたときは、姿が見えなくなっていたのだという。 神降ろしの祈禱師に診てもらったところ、狐に攫われた、とのこと。 村人たちは油揚げを持参して、村の稲荷社に行って、娘を返してくれるよう祈願した。 再び祈禱師に神降ろしをしてもらい、このことを伝えると、子を攫った狐には罰として食べ物を与えないようにすれば、子を元の場所に返すものである、と告げられ、村人たちは愕然とした。 一方、それに並行して村人たちの別の一団は、米を測る枡の底を叩きながら「コーカヤセ、コーカヤセ」と怒鳴つつ、村中を歩き回っていたのだが、結局、娘は見つからなかった。 失望しながら帰ってきた一団の中にいた家族の者が、ふと我が家の縁側を見て驚いた。 行方知れずになった娘の下駄が揃えて置いてあったのだ。 慌てて家に上がると、娘は座敷ですやすや眠っていたという。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「一七、神かくし」)
狐釣り
奈良県北葛城郡新庄村字弁之庄。 そこの新池のほとりには、今もなお、たくさんの狐穴がある。 数年前のある深夜、村の屈強な若者ら五、六人が、そのあたりに繰り出した。 七輪に鍋をかけ、一合の油で鼠を一匹、煮始めた。狐釣りである。 鼠が煮える間、お互いを紐で結び合い、狐に連れて行かれないよう準備する。 そうこうしていると女がやってきた。 「お前のお父さんが急病だよ。早く帰んな」 女は若者たちの誰と指名するでもなく言った。 そら、狐がやってきたぞ、と彼らは無視を決め込んだ。 女は彼らの家の名や親戚の名まで出して帰るよう促し続ける。 若者たちはなぜそんなことを知っているのかと驚いたが、それでも相手にせぬよう、お互いに目くばせで戒め合った。 すると突然、村の方が明るくなった。見ると、火の手が激しく上がっている。 若者たちは紐を解くことも忘れて、慌てて村へ駆け出した。 ところが村に着いてみると、暗く、しんと静まり返っている。 火事はおろか、何かが燃えた様子もない。 あっ、狐か! と若者たちは急いで新池のほとりに戻った。 鍋を覗いて見ると、鼠も油もなくなっていたという。 以上、和田秀次郎氏から聞いた話である。
このような狐釣りは、我が故郷・五位堂村でも、昔は行われていたそうだ。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「四二、狐つり」)
川の鯉
今から五、六年前の秋祭のときのことだという。 奈良県北葛城郡新庄村のシンカジヤという人が、親戚の家にご馳走になりに行った。 その帰り道、中村堤に差しかかったとき、ふと川を覗くと、川の中を鯉が五、六匹ちゃぷちゃぷ跳ねているのが見えた。 彼は土産の重箱をその場に置いて堤を下ると、川に入って鯉を捕らえた。 鯉を風呂敷に包んで堤に上がり、置いておいた重箱を拾い上げ、帰途についた。 家に着くと、彼は戸の前で女房の名を呼んだ。 「おしよ。おしよ」 「あんた、帰ったのかい」と、中から女房の声。 「おお、土産があるぞ。開けてくれ」 間もなく戸が開き、女房のおしよが顔を見せた。 彼は風呂敷包みと重箱を女房に突き出した。 「おしよ、鯉がいたから捕まえてきたぞ。こいつをてっぱいにしてくれ」 てっぱい、つまり鯉の刺身と野菜を味噌で和えた料理である。 「ずいぶん重たい鯉だねぇ…… な、何だいこりゃ!」 風呂敷包みを開いていた女房は驚きの声をあげた。 中から出てきたのは、五、六個の大きな石ころ。 あっ、と思って重箱を開けると、その中も石ころ。 食べ物はすっかりなくなっていた。
体験者から聞いた、と和田秀次郎氏が語ってくれた話である。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「四一、狐狸」)

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後ろにいる
竹川浅吉老人から聞いた話。 辺りが一寸先すら見えない闇の中でも、狐狸が化けた人間の着物の縞模様はありありと見える。また狐狸が化けた女は必ず猫背であるという。 このように狐狸の化けた人間が出たとき、化かしている狐狸は、本当は自分の後ろにいる。 だから、自分の背後の地上二、三尺辺りを不意に薙ぎ払うと、それらの怪しげな人間はふっと消える。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「四一、狐狸」)
踏み外す車夫
我が祖父・定五郎の体験談である。 その日、祖父は、私の母の故郷である竹之内村から、秋祭の土産を携え、人力車で帰路についていた。 人力車が良福寺の池のほとりに差しかかったとき、突然、車夫が道を踏み外し、車もろとも池に落ちた。当然、祖父も投げ出された。 秋祭の時期ゆえ、池は掻い掘りされていて、水は完全に抜かれていた。 二人とも溺れることなく、腰を地面に打ちつける程度の被害で済んだ。 祖父は腰をさすりながら、放り出された土産の重箱を見た。 蓋は外れておらず、地面に食べ物が散らばってる様子もない。 どうやら土産は無事のようだ、と思って蓋を開けたら、中は空っぽだった。 なお、車夫が証言するところによると、彼は道の真ん中を歩いていたのに、いつの間にか池に落ちていたのだという。 祖母は話の結びに、狸が土産を盗るために化かしたのだ、とよく言っていた。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「四一、狐狸」)
持ち替えた手
祖母から聞いた話。 ある夜、ある人が道を歩いていて、ハッと思い出した。 今俺が歩いているのは、いつも狸が若い女に化けて現れる、と噂の場所だ。 彼がビクビクしながら歩き続けていると、若い娘が現れた。 出たな狸め! い、痛い目見せてやる!! 恐怖心に捕らわれた者は反動で大胆な行動に出るものである。 「姐さん、い、一緒に行こうぜ」 そう声をかけると、彼は女の右手をぎゅっと握った。 彼はを女引いて、我が家に向かってずんずん進む。 「そ、そんなに強く掴んだら、手が痛くて堪りません。どうか……」 左の手に持ち替えてくれ…… と哀願する。 その様子が本当に痛そうである。 ちょっとばかり気の毒に思った男は、女の言うとおり、持ち替えてやった。 やがて家に辿り着いた。女の左手だと思っていたのは、太い棒だった。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「四一、狐狸」)
狸をおだてよ
狸に訛かされたときの対処法。 「ああ、びっくりしたぁ!」 と、さも驚いたように、聞こえよがしに大声を出すと良い。 そうすると、狸は満足して訛かすのをやめる。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「四一、狐狸」)
鶏と水死体
池に人が嵌まって、死体がどこに沈んでいるか判らない。 そんなときは、筏に鶏を乗せて池に流す。 水死体の沈んでいる処の上に辿り着くと、鶏が鳴くという。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「三八、鷄」)

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鼬の最後っ屁
鼬の最後っ屁というものがある。 犬や人に追われたり、土管に追い込まれたり、といった絶体絶命の危機に陥った鼬が放つ屁である。 これを浴びると人の顔などは黄色く染まり、その悪臭は一、二年間は抜けないほど強烈なものだという。 しかし、一度最後っ屁を放った鼬は仲間外れにされるそうだ。 だからよほどのことがない限り、最後っ屁を放たないものらしい。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「三五、いたち」)
鼬のええ顔
「イッタチノエーカオカオ」 子どもらは鼬を見つけると大きな声でこう囃し立てる。 すると鼬は立ち止まってキョロキョロと顔を見せる。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「三五、いたち」)
横切る鼬
道を歩いていると目の前を鼬が横切ることがよくある。 それが、自分の懐に跳び込むような方向だと、その日は何か良いことがあるという。 反対に自分の懐から跳び出すように見える方向だと、何か悪いことが起きる、あるいは失せ物をするから気をつけねばならぬという。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「三五、いたち」)
ハガミ様
奈良県北葛城郡志都美村に高村という字名の土地がある。 当地を走る県道から少し右に入った田圃の中にある不自然な草叢。 これはハガミ様を祀ったものだという。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「八、ハガミ」)
転ばし神
道を歩いていて、特に原因もないのに、ひどく転んで倒れることがある。 これは神様と行き違ったためであるという。 私が少年の頃、こんなことがあった。 我が家の前で物凄い音がして、それから酷い悪臭が漂って来たのだ。 驚いて外に跳び出すと、道に農夫が倒れていた。 放り出されたタゴから肥えが地面にこぼれていた。それが悪臭の元だった。 農夫は蒼褪めた顔で、体を摩りながら立ち上がり、こう言った。 「今、神様と行き違った」
(沢田四郎作『大和昔譚』 「二二、神様と行き合うこと」)

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蛇を指差す瓜を指差す
蛇を指差すと、その指は腐って落ちる。 そう言って、この地方の人々は、蛇を指差すことを忌み、あえて蛇を指すときは握り拳を作って指す。 もし誤って人差し指で差してしまったときは、ただちに唾をその指に吐きかける行動をとる。 また、瓜を指差すと瓜が腐って落ちるから、と瓜を指差すことも忌むのである。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「二九、蛇を指さす」)
ワシノコトヤナイガ
自分が知った他人の怪我や傷について、他の誰かに説明するとき、つい身振り手振りを伴ってしまうことだあるだろう。 しかし、この地方の人々は、そんなとき、ハッとして一呼吸入れる。 そして「儂の事や無いが」と必ず一言断りを入れてから、その動作に移る。 さもないと、自分が説明したのと同じ怪我や傷を負うことになるからである。
(沢田四郎作『大和昔譚』 「二三、ワシノコトヤナイガ」)