アレントによれば、ルソーやロベスピエールがわかっていなかったのは、「絶対善は絶対悪より危険が少なくはない」ということ、そして、徳を超越する善、悪徳を超越する悪があるということに他ならない。これは言い換えれば、善と悪には、人間の社会で通用しうる、そして通用している規範には閉じ込められない過剰さがあるということに他ならない。
その過剰さを知っている人ならば、善が徳に背く場合があることをわきまえているだろう。あるいは、悪徳と言われているものが善の機能を果たす場合があることを。しかしこの過剰さを知らない人、この過剰さに目を向けようとしない人は徳に絶対的な善の役割を与えようとする。そのとき、一般的に通用している規範は、一つの通念に過ぎないにもかかわらず、絶対性を手にすることになる。人々の同意を根拠とする徳が、人々の同意を必要としない善の性質を身にまとう。相対的なものでしかありえないはずの徳が絶対的な地位を獲得する。
國分功一郎 『中動態の世界 意志と責任の考古学』










