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<br /> ■4作品が受賞。部門をなくした新しい試み<br /> 3月1日帝国ホテルにて「第69回小学館漫画賞」の贈呈式が開かれました。受賞作・受賞者は、『数字であそぼ。』(絹田村子…
■審査委員による講評
「漫画の世界で小学館漫画賞はすごく大事な賞」(ブルボン小林氏)
贈呈式に続いては審査委員による講評が行われ、『数字であそぼ。』についてブルボン小林氏は、「新しい〝頑張る主人公〟の姿を示した得難い達成の漫画。数学に苦手意識があったが大変面白く読んだ。審査委員総意の結果だった」と評価。また、本業が小説家の同氏は「小説家より漫画家のほうが間違いなく孤独。小説の世界は〝評〟や〝賞〟がとても充実していて、売れ行きや読者の声とも違う、評価する人の言葉がある。一方で、漫画の世界においてその機会が少なく、小学館漫画賞はすごく大事な賞。これからも充実していってほしい」と訴えました。
「漫画界は2周目に入る、と感じさせられた」(島本和彦氏)
『葬送のフリーレン』は「漫画もアニメも何周も何周も楽しませていただいている」と語る島本和彦氏が講評しました。「魔王が倒されて、勇者の寿命が尽きて、どうやってここから物語を引っ張っていくんだろう? と誰もが思った1話から出発して、これほどワクワクする展開にもっていくことに、驚いた。構造的に考えると、漫画界は2周目に入るんじゃないか、そんなふうに考えさせられる鋭い批判力も込められたすごい作品」と絶賛。
「漫画の絵を見てうっとりするのは久しぶりの感覚」(恩田 陸氏)
『トリリオンゲーム』の作画者・池上遼一氏の描いた『スパイダーマン』が、幼い頃ショックを受けた漫画のひとつという恩田 陸氏は、講評の前に「今日は感無量です」とひと言。『トリリオンゲーム』で再会した池上氏の絵については「大変な進化をされていて、1ページの顔のアップを見てるだけで、ご飯3杯食べられる! 漫画の絵を見てうっとりするのは久しぶりの感覚」と感銘の意を伝え、ストーリーは「すごくスピーディで痛快。ものすごいアイディアがてんこ盛り。日本の閉塞感を打開するヒントがあり、エールになっている」と称えました。
「キャラクターが〝濃縮果汁100%〟にされたような作品」(高瀬志帆氏)
『逃げ上手の若君』の講評は高瀬志帆氏。講評の途中、自らのスマートフォンを掲げ、同作に登場する北畠顕家(きたばたけ・あきいえ)のイラストを待ち受け画像にしていると明かし、「萌えキャラがいっぱい。とにかくキャラが立っている。史実にあまり出てこないキャラクターや、薄めのはずのキャラクターが〝濃縮果汁100%〟にされたような。漫画力というか漫画馬力。頭をつかまれて『読め』、と言われているかのような、ものすごい熱量を感じる作品」と評しました。
■受賞者のことば
『数字であそぼ。』 絹田村子氏
「数字であそぼ。」書影
「以前描いた『さんすくみ』というコメディ漫画を、とある雑誌で紹介していただいたときのコメントに、『この漫画はおいしいお漬物かお新香のよう』とあり、それがとてもうれしくて。そのような存在感の漫画を描いていけたらいいな、と思ったのを覚えています。つまりそれは、おそらくメインディッシュではなく、大きく揺さぶるものでもないけれども、あるとほっとする。それがちょっとおいしかったりすると嬉しいんじゃないか…。そして、その軽くつまめるような存在の漫画に、ちょっと特殊な、大多数の人はあまり知らないであろう世界で生きている人たちの現実を盛り込むことで、身構えることなく感じてほしい。そう思い描いてきました。自分とは大事にしているものが違う人がいるんだな、とフラットに見つめることで、互いを理解しあえるきっかけになれたらうれしいです。最後になりましたが、漫画を描く上で関わってくださったすべての方々に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました」
『葬送のフリーレン』 作画:アベツカサ氏
『葬送のフリーレン』書影
「『葬送のフリーレン』は、原作である山田鐘人先生が漫画のネームと呼ばれる下書きを描いてくださり、私はそれを基に構図などを調整し、画を入れる作画作業をさせていただいております。2018年の年末、初めて『フリーレン』の1話目のネームを読ませていただき、とても美しい物語だな、描いてみたいな、と思いました。それからしばらくしてフリーレンというキャラクターを描いてみました。その画を山田先生が気に入ってくださり、作画させていただくことになったのですが、今日このような賞を受賞し、コメントさせていただくことになるとは想像していませんでした。山田先生のネームの面白さが読者の方々に伝わるように描いてきたつもりなので、多くの読者のみなさまに支えられながら、今日この場を迎えられたことがとても嬉しいです。本当にありがとうございます。現在放送中の素晴らしいアニメの制作に携わってくださっているすべてのみなさま、グッズなどの商品化に携わってくださっているみなさま、本当にありがとうございます。最終回までの放送も楽しみです。また、連載とコミックス制作を支えてくださっているみなさま、小学館の各部署のみなさま、最後に『少年サンデー編集部』のみなさま、ありがとうございます。山田先生とこの作品に関わってくださったすべての方と一緒にいただけた賞だと思っております。今後も名誉あるこの賞に恥じない漫画づくりを頑張っていきたいと思います」
『トリリオンゲーム』 原作:稲垣理一郎氏
『トリリオンゲーム』書影
「実は前作の『Dr. STONE』という漫画でも、ありがたいことに小学館漫画賞をいただきました。そのときは科学を頑張る少年という〝良い子〟の主人公だったんですね。今回『トリリオンゲーム』というのは、汚いことをしてでも金を儲けてやろうと考える主人公で、これどう考えても良い子の物語ではなく、どちらかというと悪いやつの話ですので、賞とは無縁かと思っていました。僕は元々ものすごい小学館チルドレンで。そもそも『ドラえもん』が大好きで。〝良い子〟の漫画だなと思って読んでいて、そういうのが好きだったんです。けれども、思春期になると反抗したくなるもので、中学生ぐらいのとき、『(ビッグコミック)スピリッツ』『スペリオール』といった青年誌のちょっと〝悪い〟漫画に憧れました。その中に、とても面白い漫画『サンクチュアリ』(作画は池上遼一氏)がございまして、『悪いな、これ!』って、もうゾクゾクして、青年漫画を描こうと心の中に決めたんです。そして、青年誌のデビュー作『トリリオンゲーム』で、〝悪い〟漫画を描かせていただきました。翻って、僕は『ドラえもん』は〝良い子〟の話だと言いましたけど、よく考えると、のび太君が悪いことをする漫画なんですよね。逆に『サンクチュアリ』の主人公は悪いやつだと言いましたけど、日本を良くしていくために悪いことをするという。結局〝イービル〟〝グッド〟二極化の話ではないんです。どちらもグッドの中にイービルがあり、イービルの中にグッドがある。おそらく『トリリオンゲーム』もそういうところを評価していただけたんだと思っております。今回、受賞するにあたって、もちろん池上先生にいちばん感謝ですし、担当の編集者さん。何よりも読者のみなさま、そして本日、この会場に来ている妻に感謝しています。本当にありがとうございます」
『トリリオンゲーム』 作画:池上遼一氏
「まさか、この年で漫画賞をいただけるなんて夢にも思っていませんでした。これはやっぱり稲垣先生が描かれる若々しく素晴らしい原作のおかげだと思っております。本当に感謝しています。選考結果がわかる日、担当さんから電話がかかってきて、なんかもう声が暗いんですよね。ああ、ダメだったかなと思った瞬間、『受賞しましたー』なんてね、ちょっと意地悪ですよね(笑)。それで急遽、編集部の方々が待機しているお店に駆けつけたんですけれども、ドアを開けて、稲垣先生の満面の笑みを見た瞬間、わーっと駆け寄って思わずハグさせてもらいました。男性をハグしたのは初めてのことで、感極まっていたんだと思います。晩年に花を咲かせていただいた、最高の夜でした。この『トリリオンゲーム』の作画に関しては、当然ですが僕ひとりでできるわけではありません。うちの優れたスタッフのみなさんと、専門分野の方々の熱いご協力があってこそ、初めてあの満足のいく画が描けているんだと思います。『トリリオンゲーム』を選んでいただいた審査委員の方々に心から御礼申し上げます。そして、応援してくださる読者のみなさま方、心から感謝申し上げます。それとちょっと私事なんですけど、手にシミができるような年になっても、元気で今こうやって仕事をやっていられるのは、僕の身の回りの世話や栄養管理の行き届いた食事を作ってくれている妻がいるからだと思っています。これは口だけじゃないです。心からそう思っております。それと、娘夫婦、孫の幸せが僕の仕事に対する情熱になっております。この場を借りて感謝の気持ちを述べさせていただきます。ありがとう」
『逃げ上手の若君』 松井優征氏
『逃げ上手の若君』書影
「この賞の一報をいただいたときに、僕の心にまず浮かんできたのは、なんで? という考えだったんです。なぜかというと、小学館さんの賞ですし、集英社の作品、さらに言えば、集英社の中でも僕よりもヒットしている漫画がたくさんあるからです。僕は元来疑い深い性格なので、いろいろ深読みして、うがった考えで掘って掘って…そのいちばん底にあったのは、純粋に嬉しいな、という気持ちでした。少年誌で歴史漫画をやるのは大変なことで、若い読者の方には、歴史というだけで拒否反応を示す、読まず嫌いな方もいらっしゃいます。そういう方たちに少しでも届けと、いろんな工夫や今まで培ってきた技術を駆使して、高品質なものをつくっているという自負はあるのですが、果たしてみんなはついてきてくれているんだろうか、と。自分では全然見えない世界で…。先ほどブルボン先生が言ってくださったように、闇の中で漫画を描いている気持ちでした。その中で、今回小学館漫画賞をいただいたというのは、『君がやってきたことは間違ってなかったんだよ』と言っていただいているような気持ちになりました。本当に小学館漫画賞というのは、業界一の賞ですし、その評価は確かなもので。これからも漫画を頑張って描いていく活力になる、と改めて思いました。ありがとうございました」
第69回小学館漫画賞贈呈式
左から『トリリオンゲーム』池上遼一氏、稲垣理一郎氏、『逃げ上手の若君』松井優征氏。『葬送のフリーレン』原作・山田鐘人氏は欠席
【第69回小学館漫画賞審査の経過】
2023年中に雑誌、単行本、WEB媒体などに発表された作品から選考。漫画作家、評論家、出版社、報道関係者、関係文化団体、書店および読者からの推薦作を収集の上、2013年11月8日に候補作品選出委員会を開き、18作家12作品を候補に選出。2024年1月18日に最終審査委員会を開き、厳正なる審議の結果、今回の受賞者・受賞作が決定した。
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第69回小学館漫画賞の贈呈式が1日、都内のホテルで行われた。「数字であそぼ。」で受賞した絹田村子氏は作品への信念を語り、審査を担ったブルボン小林氏は講評を寄せた。 同作は驚異の暗記力で名門大学に進んだ主人公が、大学の数学に挫折したことを起…
芥川賞を受賞した小説家・長嶋有を別名に持つブルボン小林氏は、主人公の描かれ方に感銘を受けた。
小林氏は「全員がエリートなのにバカ。ツッコミも次の話ではバカになっていて、『オバケのQ太朗』みたいに全員がバカで楽しい」と感想を述べ、そして「10巻まで読むと別の方向から感動が襲ってきた」と語った。
漫画の主人公は「ドラえもん」野比のび太のようなダメ人間、「キャプテン翼」大空翼のような最初からの天才、ダメ人間から成長して出世し成功するキャラクターに分類されると指摘。その上で「数字であそぼ。」の主人公を「画期的で新しい」と評した。
小林氏は「最初に挫折した主人公の挫折感がずっと減らない。作中ではずっとビリで数学が分からないと不安な顔のまま。試験に合格して次のステップに進んでも、主人公は自信に満ちた、充実した表情を見せない。努力して克服して自信を持つのが心地いい漫画だが、この主人公はどこまで頑張っても仲間内では自信がない。それでも数学が好きだからやめない。そこまで読んだ時に、あふれるような感動があった。本当の人生で頑張っている人はそうなんじゃないか。新しい『頑張る主人公』の姿が描かれている」と論評を寄せた。
続けてマイクの前に立った絹田氏は関係各所への感謝とともに、自身の信念を語った。「最初の連載の『さんすくみ』で、ある雑誌での〝おいしいお新香か漬けもののような漫画〟というコメントがとても嬉しかった。メインディッシュではないけれど、あるとほっとして、それがおいしいと嬉しい。軽くつまめるような漫画に、知らないことや意外な世界を盛り込むことで、読者に身構えることなく味わってほしい。現実だけど、少し特殊で大多数の人が知らない世界を描いてきました」と自身の歩みを語った。
そして「そういった人たちが、多くの人には理解されない価値観を持ちながら、生活している様子を漫画にして楽しんでいただきたい。そして『自分とは大事にしているものが違う人がいる』ということを理解、手助けのきっかけになれれば嬉しいなと思い、これからも精進したいです」と続けた。
<完結済み>「花より男子」の新シリーズが登場!舞台はF4が卒業して2年後の英徳学園!新世代のキャラクター達が送る、もうひとつの「花男」開幕! [JC全15巻発売中]
漫画家生活30年以上、少女漫画界のレジェンド・神尾葉子氏が、自身の歩みと創作の裏側を“言葉”で語る初のエッセイ集「花より漫画」が、12月11日より発売開始された。本エッセイでは、漫画家になったきっか
漫画家生活30年以上、少女漫画界のレジェンド・神尾葉子氏が、自身の歩みと創作の裏側を“言葉”で語る初のエッセイ集「花より漫画」が、12月11日より発売開始された。本エッセイでは、漫画家になったきっかけや、漫画家としての試行錯誤の日々、「花より男子」誕生秘話、編集者や読者との忘れがたいやり取り、メディア化についてなど、漫画創作の裏側が明かされている。
「花より漫画」神尾葉子
また作品の源でもある神尾氏の日常にも触れ、心を癒してくれた猫との暮らし、旅先の記憶、大切な人々との交流などバックグラウンドまで書かれていて…まさに「人生は物語より物語」を証明するようなエピソードが詰まっている。
神尾氏ならではの、あたたかくユーモアに満ちた“日常のドラマ”の数々は、読み物として面白いだけでなく、読んでいるとなぜだか心のコップが満たされて涙が溢れてくるような、そんな不思議なエッセイだ。
このたび本エッセイの発売を記念して、神尾氏にインタビュー。少女漫画と少年漫画を描く上での違いや、作品やメディア化との距離の取り方、そして新しいことに挑戦し続ける理由などさらにディープに語ってもらった。
■「そろそろ少女漫画(を描くの)は卒業だな」と思った
ーー今回は初のエッセイということですが、執筆していく中で、自分自身への新たな発見はありましたか?
これまで漫画しか描いたことがなかったので、本当に初めての経験でした。自分のことを書くというのがすごく苦手で、このエッセイの出版が決まってから、実は4カ月ぐらい書けなくて、どうしよう…と焦ってました。でも、数本書いてみたら慣れてきて、「あれ?いけるかも」と。1カ月で20本書くことができました。書き出すまでは自転車に乗れずにふらついていたのに、いったん動き出したら、締切という坂道をブレーキなしで転げ落ちていくみたいな感じでした。
このエッセイをきっかけに、自分の人生を振り返っていったので、回顧録みたいになっています。「花より男子」を描いていた頃など、その時々自分がどういう気持ちで、この作品とどう向き合っていたのかを記憶の扉を開け閉めして、不思議な気持ちになりました。その時考えていたことを、ほぼすべて文章にすることができたので、うれしかったです。
ーー改めて自身の歴史が整理できたのですね。神尾先生は19歳の頃、将来に迷っている際に突然漫画を書こうと思って10日間で描き上げ、それが準グランプリを受賞したことがきっかけで漫画家デビューしたとのことですが、神尾先生の初めての漫画はどのような内容だったのでしょうか。初めから明確に少女漫画家と決めていたのですか?
私は昔から少女漫画雑誌の「別マ(別冊マーガレット)」が大好きで、「別マ」に投稿すると決めて描きました。内容は、年下の高校生の男の子を好きになる大学生の女の子の話です。今思い返しても本当にひどい仕上がりで、よくこれで編集部に拾ってもらえて漫画家になれたなと思うような作品でしたね(笑)。当時としては、大学生の女の子を主人公にするというのが少し大人っぽくて珍しかったのだと思います。余談ですが、いろいろあって別マではなく週刊マーガレットの作家になりました。
ーー神尾先生は、少女漫画雑誌から少年漫画雑誌へと転向しています。本エッセイでは、その理由について「少女漫画を描くことに限界を感じていた。少女漫画界で必要とされなくなってきた」と書いていましたが、それは“恋愛のトキメキ”を描ききったということなのでしょうか?
トキメキを描ききったと言いますか…恋愛ものは普遍的なテーマなので、人を好きになる気持ちというのは年齢に関係なく描けるとは思うんです。ただ、私が描いてきた少女漫画の世界は10代や20歳前後の女の子たちが登場することがほとんどでしたし、読者も若い女性が多かったということもありました。昔から「少女漫画は主人公の年齢に近ければ近いほどリアルな話が描ける」と言われていて、私自身もその年代から離れて行ったので、当然だと思っていました。25年以上描いていて、パッケージ化された“学園もの”というシチュエーションにも少し飽きてしまったというのもありましたね。そんなわけで「そろそろ少女漫画は卒業だな」と思ったんです。
■「『分からないから、読まない』というのが作家は一番悲しい」
ーートキメキではなくリアルさなのですね。少女漫画は基本的に“恋愛”がテーマになっていて、少年漫画は“勝利”がテーマになっていることが多いですが、神尾先生は漫画家として違いをどこに感じましたか?
少年漫画誌とはいえ女性も読むとは思うのですが、読者の割合的には男性の方がやはり多いと思います。とにかく“男性が読む”という前提の下に描くので、まずは“分かりやすさ”が重要になるのではと思っていました。当然、少女漫画のような変則コマ割りは避けて、読者が迷わないように、読みやすくしなければいけないなと。
また描く対象となる“カッコいい男の子”像も違います。少女漫画には、いつも助けてくるカッコいい男の子、女の子にとって王子様的な都合の良い男の子が出てきます。私はそういう男の子が出てくる漫画を読むのも描くのも大好きなんですけど (笑)。もちろん少年漫画にもそういった男の子が必要ないわけではありませんが、男性読者に「こんな男いないよ」と思われてしまったら、先を読んでもらえなくなってしまう。だから、男性が感情移入できるようなキャラクター作りを、念頭に描きました。それはもう、当時の「少年ジャンプ+」の担当さんに、とにかくいろいろなことを教えていただいて、まるで新人になったような気分でした(笑)。
ーーコマの大きさ自体も、少女漫画と少年漫画では違うのでしょうか?
違いますね。特に「少年ジャンプ+」の漫画は基本的にスマートフォンで読むものですから、小さなコマだと拡大しないと見られません。電車の中などでスピーディーに読んでもらえるような、分かりやすい画面構成も求められます。また少女漫画だと、セリフや表情といった“情報”で察してもらえます。女性はエモーショナルな感覚でも楽しんでくれるのですが、男性向けとなると、そこは気を付けるべき点でした。
このキャラクターはどこに立っているのか、誰に向かって喋っているのか、これはどのタイミングの言葉なのかといった状況設定が明確にするのが大切だと思いました。「分からないから、読まない」というのが作家は一番悲しい。さまざまな違いがあって、大変勉強になりました。
ーーそんな違いがあるのですね。同じ高校生を描くにしても、少女漫画ではより“気持ち”にフォーカスされるので年齢が離れるにつれて描きにくくなるけど、少年漫画のキャラクターはある程度、主人公の年齢ゆえの心情のリアルさは関係なく描けるということでしょうか?
そうですね…一概には言えないですが、私が「少年ジャンプ+」で描いた「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」の主人公・神楽木晴という男の子は、すごくお金持ちで物理的にはなんでも持っているようだけど、何も持っていない。いつも人と比べてしまい、どこか卑屈なところがある。そういう男の子がきっかけは好きな女の子のためなんだけど、どんどん男として成長する話を描きたいなと思ったんです。だから、高校生の話ではあるけど、恋愛のトキメキのような10代ならではの瑞々しい感情の揺れではなく、“成長”という普遍的なテーマを扱ったのでまた違ったのではと思います。
■道明寺は「気付いたら、主役に踊り出てきてしまった」
ーーちなみに、先生自身が今ハマっている漫画はありますか?
漫画を読むのは今も大好きなのでよく読んでいます。最近だと「チ。-地球の運動について-」が面白かったです。仕事先の方から「地動説と天動説のお話だ」と紹介されて、すぐに全巻購入し、一気に読みました。ああいう難しいテーマを扱っている漫画は読んでいてとても勉強になりますし、学びがある作品というのを私はあまり描いたことがないのですごく憧れます。ただ面白いだけというのももちろん好きですが、知らないことが知れることがいいなと思いました。あとは「ゴールデンカムイ」も好きです。あれを読んで、熊が怖くなりました (笑)。
ーー本エッセイを読んでいて、「花男」の誕生秘話にも衝撃を受けました。元々は花沢類が
ヒーローポジションだったということですが、どのあたりから道明寺司がヒーローポジションに切り替わったのでしょうか?
あんなにクルクルした髪型のキャラクターがヒーローだなんて、ありえないですよね(笑)。初めは本当に悪役として登場させたので、すごく嫌な人間でした。でも、少女漫画なので、ただ意地悪なだけの救いようがないキャラクターではダメだなと。読んでいる人が怖いじゃないですか。だから、小学生の男の子が好きな子に意地悪をするような、ちょっとバカっぽい感じに変化させていったんです。そうしたら、すごく一途な男の子に変化してきて、私も描いていくうちに道明寺がかわいくなってきたんですよね。気付いたら、主役に踊り出てきてしまったという感じです(笑)。
ーーでは、「ここから切り替えよう」というような、明確なタイミングがあったわけではないのですね。
主人公の(牧野)つくしが他の人たちからいじめられる、道明寺が俺だけがいじめていいんだよ、とつくしを庇っていく。どんどん道明寺がつくしを本気で好きになっていく。その辺りからでしょうか。それでも、花沢類がつくしの相手役になるという余地はずっと残しておいたんです。類のことも丁寧にキャラクターをつくっていたので。でも、道明寺が思いがけず育ってきてしまったというのが正しい言い方ですね。
私だけじゃなくて、長く連載されている漫画家さんには、描いているうちに「あれ? こっちの方がいいんじゃないか?」と、方向転換する方は他にもいらっしゃると思うんです。私は連載中、20巻ぐらいまでは花沢類か道明寺かという余地を残しておきました。どちらを選ぶか、この先のエピソードで変化があるのではないかと思っていたからです。当時、読者から「もう絶対に花沢類!」「なんで道明寺なの?」というお手紙をすごくたくさんいただきました。大人の女性は道明寺が好きな方もいらっしゃいましたが、年齢が若ければ若いほど花沢類が人気でしたね。
■「どうしてもキャラクターに“癖”をつけてしまう」
ーー私はそんな道明寺の“愛すべきバカ”さが大好きです。どうしてあんなに絶妙な面白さと愛くるしさのおバカさがナチュラルに描けるのでしょうか?
ありがとうございます(笑)。間が抜けているアホっぽさみたいなものを入れていこうかなと思ったんです。文字が読めないとか、ことわざを間違える、とか。見た目は怖いのに抜けているところにギャップをもたせたのが良かったのかもしれないですね。
ーーでは、特に何かを参考にしたわけではなく、神尾先生の中から自然に生み出されたということでしょうか?
自然にと言いますか…私自身も初めの方は読んでいて道明寺がちょっと怖いなと感じていたので。その息詰まるようなシリアスさに少し穴を開けて空気を入れてあげるような、隙がある感じにしたいなと思ったんです。好きな女の子にはすごく弱い男の子みたいな感じをイメージしていったら、あの道明寺になっていきました。
ーーそんな神尾先生は、道明寺はもちろん花沢類も含めて「花男」の“F4”は誰もタイプではないと言っていましたが、一体どんな男性に心を惹かれるのでしょうか?
すごく普通の答えで申し訳ないのですが(笑)。ブラッド・ピットが好きです。単純にビジュアル的に綺麗だな~と。今も渋くて素敵ですが、もう少し若い頃の彼が、どストライクでした。
ーー世界のブラピですもんね。でも、神尾先生の作品にはブラッド・ピットのようなストレートにカッコいいキャラクターは登場しない印象があります。
どうしてもキャラクターに“癖”をつけてしまうんですよね。類も、ただカッコいい王子様というわけではなくて、ちょっとつっけんどんじゃないですか。なんとなく私の癖で、登場人物をストレートな設定にはしないところがあるかもしれませんね。
■「“漫画は漫画、ドラマはドラマ”と割り切っている」
ーー「花男」は社会現象を起こすほど大ヒットしたドラマをはじめ国内外問わず、多くメディア化されています。他の作品もメディア化が相次いでいますが、神尾先生はメディア化の際には、基本的には相手側に委ねて自身とは距離をとっている印象でした。なぜその距離感を保つことができるのでしょうか?
理由はいくつかあります。まず一つは、原作者の言葉というのはすごく強いので制作の方たちに「これは嫌です」と言ったら、その言葉はとても重く響くと考えています。ただ「嫌だ」と言いっ放しにするのではなく、「こうしてください」「もっとこういう要素を入れてください」と代替案を出すのが責任ある態度だと思っていて。私の場合、メディア化されていた時期は連載でとにかく忙しくて、制作に原作者として加わるのは無理だったというのもあります。
ラッキーだったのは、その時々の制作チームの中に、原作をめちゃくちゃ読み込んでくださっていて、「大好きです」という方が必ずいらっしゃったんです。海外でのメディア化の時も同様でした。だから、「それならもう預けてしまおう」と信頼して、全面的にお任せしていました。あとで脚本を見せていただくこともありましたが、ほぼ口を出したことはありません。それだけ、驚くような改変はされていなかったということでもありますね。
ーー日本のメディア化と、海外各国のメディア化で違いはありましたか?
一番大きな違いは“長さ”ですね。日本のドラマはだいたい9話から10話くらいですよね。でも、たとえば中国や台湾、タイなどは一つのタイトルが長いです。中国にいたっては50話くらいあるんです。だから、すごく原作に忠実に作ってくださっていたと思います。
私が「そうしてください」とお願いしたわけではないのですが、尺がたっぷりある分、原作通りに作られていることが多い印象でした。エピソードが大幅にカットされることも少ないですし、登場人物が統合されるようなこともあまりなく、原作にそったそれぞれのキャラクターが出てくるのも楽しかったです。
ーーでは、国内外問わずメディア化のメリットとデメリットは感じましたか?
デメリットというのはほとんどないのですが、強いて言えば“ドラマは決められた回数で終わらせなければいけない”ということですね。連載が続いていても、ドラマは全9話などで完結させなければいけません。これはテレビドラマの性質上、当たり前のことなので、最後がドラマ独自の終わり方になるのは「そういうものだよね」と思っていました。
読者の方の中には「原作通りにやってほしかった」という方ももちろんいらっしゃったと思いますし、実際に私もそういう声は聞いていました。でも、私は「漫画は漫画、ドラマはドラマ」と割り切っていて、皆さんにもそれぞれ別物として楽しんでいただけたら一番うれしいなと思っています。
■「(つくしを)類の方へ戻そうとするけど、どうしても道明寺の方へ行ってしまう」
ーーお話を聞いていても、本エッセイを読んでいても、神尾先生自身と作品自体との間にも一定の距離を取っているように感じました。
漫画を描いていた時は、四六時中その登場人物たちのことばかり考えていました。私が彼らのことを考えている以上、それぞれの登場人物全員に“私”という人間が入っていると思います。私が描いていますが、常に俯瞰する自分がいて、自分が読者になった目で「こういう展開になったら面白いのでは?」ということを考えて作っていました。その展開の中に登場人物たちを入れて動かしていく、という作り方をしていましたね。
――なるほど。私は、特に少女漫画は主人公に作者の方の主観、いわゆる一人称的な視点を入れているのかなとイメージしていたので驚きました。
もちろん主人公に一番自分を入れてはいます。当時は隔週連載だったので、とにかく「続きが気になる話にしよう」と思っていました。2週間に1回発売されるので、次号も買ってもらえるような、楽しみにしてもらえるような展開を常に目指していたんです。よく「少年漫画っぽい」と言われるのですが、次から次へと新しい展開が出てくるようにお話をどんどん転がしていくような作り方をしていました。
ーー人物の視点からではなく、まずストーリー全体の“箱”、枠組みを作っているということですね。少女漫画的な作り方と少年漫画的な作り方、両方をミックスしていたからこそ、少年漫画好きの方もハマる少女漫画になっているのでしょうね。エッセイには、ストーリーを作っていく中で「登場人物たちが勝手に動き出していく」とも書かれていて、とても興味深かったです。
私だけではなく、おそらく世の中の漫画家は皆さんそうだと思うのですが、だんだん魂を込めていくと、キャラクターが勝手に動いていくようになるんですよね。彼らの動きに合わせて、私がストーリーを構築していく、という感覚です。
ーーちなみに「花男」を描く中で、登場人物が意図せず動き出して一番困ったことを教えてください。
それはもう、つくしですね。気持ちが花沢類から道明寺へ、ぐーっとシフトしていってしまって。私は一生懸命、花沢類の方へ戻そうとするのですが、どうしても道明寺の方へ行ってしまうんです。だから、「そんなに苦労したいんだね。まあしょうがない」と思いながら描いていました(笑)。
■「『花男』などを連載している時も違う漫画を描きたくて仕方なかった」
ーー「花男」や「キャットストリート」など、神尾先生の作品には“学校”が舞台のものが多く、またいじめや不登校などの学校のネガティブな面も扱われています。神尾先生自身も学校がなんとなく嫌いだったとのことでしたが、どんなところに“嫌”を感じていたのでしょうか?
学校は結構な日数を休んでいました。私は今でも、毎日同じことを繰り返すのが苦手なんです。同じ電車に乗って、同じ教室に入って、同じ席に座って…。それがすごく嫌だったというわけではないのですが、性に合わないというのが正しい言い方ですね。卒業に必要な出席日数を計算しながら通うくらいでしたから。“学校”というシステム自体が合わなかったんでしょうね。学校よりも、一人で家にいて趣味に没頭する方が楽しかったんです。
ーー同じことを繰り返すのが苦手とのことですが、その分、コンフォートゾーンから抜け出して新しいことにチャレンジし続ける、その姿勢がとても魅力的です。2026年1月15日には、神尾先生が原作・キャラクター原案・脚本を手がけた完全新作アニメーション「プリズム輪舞曲」が、Netflixで世界独占配信もされます。常に新しい扉を開けていく神尾先生ですが、これまでの人生を振り返って、最も決断に勇気がいった挑戦は?
やっぱり漫画家になったことだと思います。当時は景気が良い時代で、ある程度好きなところに就職できるような状況でした。そんな中で「漫画家になる」と言ったので、周りからは「何を考えているかわからない」といった感じで反対されました。
でも、私は新しいことをするのが好きで。「花より男子」などの漫画を連載している時は腰を据えていましたが、何か違う漫画を描きたくて仕方ありませんでした。その時に考えていたのが「キャットストリート」という漫画で、連載が終わってからなんとか実現できたのでうれしかったです。アニメのお仕事に関わらせていただいたのもすごく刺激的で、新鮮で楽しかったですね。
■「“みんなで作る”ということ自体が初めての体験だった」
ーー初めてアニメ制作をしたことで、創作者として新しく学んだことはありましたか?
本当にいろいろ大きな経験になりました。今回、私が大元の脚本を担当したのですが、どうしても少女漫画寄りに振り切ってしまう部分があったんです。アニメーションの中には三角関係が出てくるのですが、それだけの話ではなく、あくまでメインテーマはそれぞれの成長と“青春群像劇”。監督やWIT STUDIOの方々とストーリーを練り上げていき、みんなで調整しながら、大きな流れを作っていきました。
画家を目指す女の子が主人公の物語なので、芸術面でのよりアカデミックな部分についても話し合いました。スタッフ全員で時間をかけて考え、最初のラフな脚本から最終稿へと仕上げていったんです。 漫画は基本的に一人で描くものなので、“みんなで作る”ということ自体が初めての体験で、非常に新鮮で心強く、楽しかったです。
ーー最後に、神尾先生は、時代がアナログからデジタルになったことで、漫画もPC一つでどこでも描けるようになった、旅をしながら描けるから“自由”だと言っていましたね。神尾先生は、今後創作者としてどのような人生を歩んでいきたいと考えていますか?
まだいろいろと挑戦したいなと思っています。小説を書いたり、エッセイもまた書いてみたいですし、PCを一つ持って海外、たとえばヨーロッパなどへ行って、そこで思いついたことを書いたりもしたいですね。漫画も描きたいと思えばどこでも描ける時代になったので、その時が来たら“また”と思っています。

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Underpass. Luton, September 2015.
光り輝く、夜のあたしを見てくれ! 女たちの孤独な闘いを描いた最高傑作。 名門Q女子高に渦巻く女子高生たちの悪意と欺瞞。 「ここは嫌らしいほどの階級社会なのよ」 悪魔的な美貌を持つニンフォマニアのユリコ、競争心をむき出しにし、孤立する途中入学組の和恵。 ユリコの姉である“わたし
WildWideWeb: 文化資本の話になるとそこは上手にスルーするというところなんだろうな。
「私たちに続きがあればどんな物語になってたの」。小椋日南子は不器用ながらも日々頑張って働いているが、なかなか恋愛ができずにいた。頭の中に小学校の時に片思いをしていた男の子・依束くんが居続けるから。そんななか、彼女は偶然彼と再会! 二人は距離を縮めていく。だが依束くんの前で爆発事件
enemyoffreedom: コレは多い、というかコミュ強者がコミュ弱者から搾取する際の典型パターン

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Mark Rothko, Untitled, 1955, Oil on canvas
© 1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko/Artists Rights Society (ARS)