芦田みさ子「紅絹」より
待合せれば恋人のようにさわやかに時計が鳴る
夕雲に吹くトランペット少年青年となるころ
涼しい水に洗うエジプトのお米よ
市川一男「透明なうろこ」より
春の三日月くらく人の死ねがつたこともある
子をうむ犬に春のまひるのむごい明るさ
海埋めたてられはじめからそうであつたように雲
世界中の時計に時をきざませ世の終りを待つているもの
伊藤後槻「十三夜塔」より
先客の女と俺に餃子両手で出す
一羽になつてつかまらない白い鶏だ月がでて
浦賀広巳「黄色い封筒」より
雪ふれば妻の名前すらすらと言える
黒い旅カバンここから単線となる町
ビール一気に飲む雲かたよつてゆく枯野
蛇つかまえ少年風船の重さでくる
大竹竜「見事な菊」より
柿むいて血のつながりに負けまいとする
あいてにいつこうおかまいなくえんだんからつきのうらがわのはなし
小久保久雄「自分の名刺」より
混んだ男湯におんなの子のかなしい立て膝である
片手はおとこのそれをまさぐり運転手にあごで道をおしえる
佐藤東郊「竹の花」より
がけ下めぐる水を拒否して竹の花ぴらぴら
前世の因ねんと思い知らされて月光のひまわり
月へロケットいちじくの葉もふきあげられ
高橋木槿「長い眉毛」より
うそばかりつくこの男の涙がなんときれいな
うらおもてみがかれたガラスのような透明なさびしさだ
田中君子「私のページ」より
れんげのおし花が古い私のページから落ちる
大みそか夜の電車にだまつて座る
高田声三「かゆいところ」より
町かどに消えたあなたを風に追わせる
こんなに家がたつてしまつて川魚料理
かゆいところをかいてじぶんにはすなお
富澤正一「葉ざくらの頃」より
つばくろよ思い出だけで家がない
明日から職場がないひぐらしひとすじ
やけ酒ものめない男で首の汗ぬぐつている
西村秀治「四季好日」より
ニュース映画総理と見て画面にもいる総理
建物のてつぺんにくればくるで春の空遠くなる
山脈から暮れて菜の花畑に子供がひとり
早川八重子「ぶどうの花」より
私にだけわかる月日 冷い手に脈とられ
心の十字路に来て信号を無視した女
小さなヒミツを植え南風冷たい盆地
愛憎のかなたに碁石を並べる
早川宝「蹴ればとんでいく石ころ」より
みんなのするようにやれば円満な人だという
生活のまずしさせめて時計だけは正確に
知らぬ町を歩くポストはどこでも赤い
藤井以身「足跡」より
雷雨予報 皿からキャベツがこぼれる
獣みんな出てきて月夜の雪に残していつた足あと
月の裏側写そうが昔と変わらぬだるまの顔
藤島範孝「遠い電話」より
雪の下で生きているということが遠い電話につながる
ジエツト機とべとべキンタマにぎつてもらい風呂
おきわすれたもののひとつに薄情な耳
まつもと・かずや「黄という色の日本人」より
よるに、おんなのくいのこしたさらをあらう
ちちはつねに、おおきななみだためている
ねこじたの天皇にねこじたの孤児たち、全くちがつたところでひなたぼつこ
松本裕「虫ぞろぞろ」より
親に甘えた記憶がないみごとないわし雲だが
さまざまな生き方をすませて裏町灯を消していく
間宮春生「青麦」より
失業のひとりとなつて見ているかもめ
サーカスがみたくてしぐれふる日曜
憲法改悪されるか黒ストツキング流行
水谷六子「愛欲の海」より
白もくげ空いつぱいに今日一日のいのち
愛欲の海あたたかく静かに真正面に満月のぼり
残雪消えてしまい夕ぐれの街ひろびろと帰る
森子朗「雲と人間と海と」より
雲を一トン売りそこねた風小僧の風のようなたくらみ
ぬきさしならぬ海の広さに頭のゆがみどうなる
巨大資本のゆがみたとえばブラインド越しの西日というやつ
故・市川忠男「ミイラの気持」より
サ・シ・ス・セ・ソ青いサ行のリズムにのびる草の葉
お堀星条旗をうつして古事記どおりのせきれい
おなら出す注射もあつて病院はみんなのもの
故・市川たまお「みどりの道」より
もうすぐ暮れてしまうこの街のなにもかも
さくら風のないのに散つて病名うちあけられる
故・島野一進「寒いところ」より
つまずけばかげろうのかつさいゆれる
うめいて目ざめる月光が額につきささつていた
枯木星いつぱいに吊しねむるなとは神の心か