【今年を振り返るブログを書こう書こうと、何度も思っては思考が止まってしまい書けなかった(中略)誰にも知られずにいるのもしんどかった。知って欲しいし知って欲しくないと思っている。もうめちゃくちゃ...】これは 親子ほど年の離れた娘のようなお友達が年末に投稿したブログ冒頭の一節。それは あまりにも私の心境を語ってくれているかのようで、そして 気にかけながらも きっと彼女は順調に幸せに向かって邁進していると思っていた私にとって 驚きくべき内容だった。すべてを拝読し終えた私は 「私も彼女のように どこかに これを残しておかなければ」という焦燥に強く駆られたのだ。
当時 私は大失恋したばかり、彼はその支えとなってくれた。音楽を初めとする趣味、考え方や価値観、好きな食べ物も、バツイチであることも 私たちはすぐ意気投合した。私たちが 今の関係になるまでに そう時間はかからなかった。
実は 彼には長年連れ添った 空気のような彼女が居ることを最初から聞かされていた。「ご結婚されるんですか?」の問いに 「結婚は20代の時一度失敗してるからしていないし、結婚に意味を感じていないし、その予定も今のところない」と彼は答えた。私は 彼に彼女が居ることに対して なんの蟠りも感じなかったし、むしろこの歳で何もない方がおかしいくらいだと思っていた。
「彼女には長年連れ添った情があるし、今すぐ別れることはできない。寂しい思いをさせる事もあるかもしれないが、彼女は仕事にも趣味にも忙しい人で 今は月に何度かしか会わないし、セックスもずっとレスだし、僕のできる範囲で貴方を大切にするし、一緒に居たい」と。
その言葉に私はもう充分満たされていた。ただ一つだけ彼に念を押して聞いたことがある 「貴方の唯一の彼女になる確率が0%にならない限り、私は待っていてもいいですか?」と。
そして彼は 「はい!いいですよ」と首を縦に振った。
私自身も元カレに新しい女ができての破局だったから、彼女への気遣いもある。そこは焦らず 彼の方針と時の流れに任せようと思ったのだ。(もちろん いつか彼が選ぶのは 私に違いないと夢に見ながら...)
ただ あの時 真実を全て打ち明けてくれてたなら、ここまで真剣に 夢を見ることも 彼を愛そうともしなかっただろう (や、わからない、真実を知ってようが 知っていまいが、結果は変わらなかったかもしれないけれど...)
真実を知ってしまったのは 昨年(2018年) 梅雨入りする少し前のことだ。
それは突然ではなく、出会ってから5年余の歳月を経て 徐々に明らかになっていった気がする。
それまでも 私は幾度となく 小さな疑念を抱いては 遠慮しがちに問い質したことがあったのだが、彼は断固として それを否定し続けた。
私はその度に 疑ってしまった事を悔い、また彼を信じようとした(正確には モヤモヤしたまま 彼の毅然とした否定っぷりを尊重せざる得なかったのだけれど)。
これまでの彼の言動、そして私たちのメモリ全てが、その一瞬で 薄汚れたニセモノに豹変した気がした。
あまりの動揺に 私はだらしなく無精髭を生やかしたまま 掛け布団を抱きかかえるようにまだ眠る彼を叩き起こし、問い詰めた。
今にして思えば もう少し賢い方法があっただろうが、もう私は黙っていられなかった「大変なのよ!ねぇこの人 ホントは誰なのよ!ねぇ貴方と同じ苗字よ!なんでルーちゃん(彼の愛犬)をプロフの写真にしてるの!」
その名前には見覚えがあった。以前彼の家に泊まった時、曇りガラスの引き出し越しに 差出人が彼の母親の書き留め封書が見えた。私はそっと引き出しを開けそれを手にし 裏返した。そこに書かれていた宛先人の名前がそれだ。
その時 私は見てはいけないものを見てしまった気がした。彼の苗字と同じだったことから 彼に対する疑念が高まり、彼の目を盗んで その封書をスマホで写真に納めていた。
当時は それをすぐに彼に聞けなかった。その名前は 彼が二十代で離婚したという元嫁と同じだったから、考えようによっては、その当時の古い郵便物かもしれなかったし、そんな事より その時は彼の機嫌を損ねず二人の大切な週末を満喫すべきと思ったのだ。だが帰宅し、撮った写真をよく見ると 消印がつい最近のものであることがわかった。様々な憶測が私の頭を過ぎった。いつもとなんの変わりのない穏やかな彼、それを聞くことで、部屋を物色したと思われるのもイヤだった(私たちは付き合った当初からお互いの私物を勝手に弄らないことが暗黙のルールだった...気がする) から、その後も聞くに聞けずにいたのだが、四六時中 その事が気になって食事も喉を通らず、夜も簡単には寝付けない日が続いた。いよいよ仕事でミスをしでかし「聞きたいことがあるの」と彼に言えたのは それから一週間後の週末、私の家で二人湯舟に浸りながらだった。
彼の説明は「ぁあ~あれかぁ~」と半ば笑いながら呑気な口調ではじまった。実家に元嫁の通帳とか書類的なものが未だ残っているのを母親が見つけて もう要らないものかもしれないけれど、自分で破棄するのも気持ち悪いからと送ってきたというのだ。彼から悪びれた表情など なにひとつ感じなかった。私は「なぁーんだ!そうだったんだ!」と言ったものの、ならばなぜ苗字を現在のものにしなかったの?そもそも貴方の名前で送るんじゃないの? そう言おうとした瞬間、折り曲げられて湯面から飛び出た膝小僧を人差し指でなぞられて 私は きゃっ!となって その場は笑って過ぎてしまっていたのだ。
渋谷O-EASTでLOSTAGEのワンマンが無事に開催され、山形のDOITに旅を兼ねて参戦し、さぁ次はマスドレのワンマンを楽しもうと 週末の鋭気を養いながら 私たちは一緒に躰を横たえていた。
少し早く彼より先に目が覚めた私は、スマホのアルバム(写真アプリ)を見ながら二人の思い出を回想していた。すると忘れかけていたあの書留の写真にでくわした。そして そこに電話番号が記載されていることに気づいてしまったのだ、今さら...と思いつつ、私はLINEでその番号を検索にかかったのだ。すると、みごと宛先に書かれていたまま(彼と同じ姓)の名前が表示された。目を疑ったのは 使われていたプロフの写真だった。彼が離婚したのは20年も前のことだ。愛犬の年齢は16歳。なのについ最近とも言える愛犬の写真がプロフに使われていたのだ。さらにそこは彼の部屋であることは一目瞭然だった。
頭が混乱して 気が狂いそうになった。私は 泣きながら(たぶん怒鳴ったり奇声をあげながら) 彼を問い詰めた。彼はうなだれ ようやく話はじめた。
彼が元嫁と言い続けたその名前は 彼が長年付き合い続けている彼女だったのだ。「彼女」というその人が 堂々と彼と同じ姓を名乗っている。彼の母親も 公認ということになる。
ただその時 彼は結婚だけはしていない!と言い張った。その三日後には それも嘘で 2012年 私と出会う前に 彼は既に再婚していることを知ることになるのだけれど。
私にはよくわからないが、どうやら「別居婚」というヤツらしい。
私は 何も知らなかったとはいえ、6年近くも 彼と不倫をしていたのだった。