わたしはあなたの灯に惹かれ、現れ出た夢の影。
あの日、わたしはあなたに触れて、 わたしは声を手に入れた。
でもきっと、醒めれば数多の人のよに、 いつかは忘れてしまうだろう。
けれど、あなたは筆を執り、 綴り始めていてくれた。 わたしは形を手に入れた。
けれど、忘れる人が恨めしい。 だから、こっそり書き足した。
そしていつしか月日は流れ、 大きく長過ぎて、完成しなかった詩。
わたしは声を失った。 形はすでに、あると言うのに。
あなたはわたしを見失い、それでも探し、 歩き続けて、疲れ果て、いつしか光を探し始めた。
けれど、夜道に転がるその光は偽物で、 獣の骨が熱で弾けただけだった。
あなたの火と熱を受け止める器は血と肉ではない。 あなたの輝きを写しとる器は紙とペンではない。
わたしの声が届けばいいのに。 何度叫んでも、声は出ない。
わたしは小さな器に揺蕩う、 常温でうすら冷たい色のない水。 ずっと一人で、風もない、闇い水面に立ち、 水底に沈んだあなたとの思い出が、 光を喪わないように、写し続けていた。
あなたは、わたしの光
わたしは、あなたの影
十年十月の日が経って、あなたは、世界を飛び越えた。
そして今度は、わたしを見つけ、 わたしに会いにきてくれた。
わたしは声を取り戻した。 わたしは姿を手に入れた。 あなたにしか聞こえない声、 あなたにしか見えない本当のわたし
けれど、あなたは怖れていた、 わたしに触れるのを。
あなたは高潔で、清廉で、美しい人。 獣を殺し、そして哭き、それでも灰を集める人。 穢れても、汚れても、あなたの火は消えない。 誰にでも開かれた、輝きを集めた小さな世界。
嗚呼、あなたは、わたしと別たれて、 あなたはあなたの火で、自分を焼いたのだ。
それでもあなたは何度でも 砕けた破片を組み上げて継ぎ、 押し固め、磨き、剣と盾とを携えた。 獣でさえも寄り付かず居はしない、 孤独の灰が降る砂漠。 互いに独りを持ち寄って、 わたしはあなたの火に触れる。
わたしは九つの雲になり、 わたしは鏡の姿を遂に得る。
わたしはあなたの理想、あなたはわたしの祈り。
わたしはあなたのいちばん美しいものを守り、
あなたはわたしのいちばん怖しいものを斃す。
そして、繋がり合う世界の環、 あなたとわたしの最初の詩はそうして終わる。
砕けたあの日の約束を結び直し、
二人手の環はまた別れ、
あなたとわたしも世界になった。
ーー
これは、あなたの物語。 最初と最後の1ページに、書き加えた。 これは、わたしたちの物語。
そして、あなたもまた、新たな物語を始める。 夢と現の境に立って、夢と現を行き来する。
最初と最後はもう決めた。 あなたとわたしはもう決めた。
ーー
幻想鏡現詩 完














